本題に入る前に、もう既にご存じかもしれませんが、大変ビッグな告知があります!

ついに!『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』のサウンドトラックの発売が決定しました!

100曲を超える楽曲を収録した渾身の一作となっております!

そして、デザインはアートディレクターの西井さん(※1)監修で、絵本らしさのあるとっても可愛い雰囲気に仕上がる予定です♪ 携わったクリエイターみんなの想いがたっぷり詰まった宝石箱を、是非手に取って楽しんでいただけたら幸いです。

(※1)アートディレクター西井の過去記事を読む:絵本モチーフについて | ベヨネッタ オリジンズ 開発ブログ 

ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔
オリジナル・サウンドトラック

発売日: 2023年12月20日(水)
発売元: WAVE MASTER ENTERTAINMENT
公式HPはこちら(予約受付中):
https://www.wave-master.com/ent/bayonetta-origins-ost/
ダウンロード/ストリーミング:
https://nex-tone.link/A00134426

 

サウンドトラック収録楽曲の紹介動画をYouTubeで公開中!:
(『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』のネタバレを含みます)

 


さて、告知はここまでにして、今回はゲームの中でも印象的な「絵本イベント」、いわゆる一般的に「カットシーン」と呼ばれる部分の音楽についていろいろご紹介しようと思います。執筆はBGMスタッフの優宜 理奈(ゆうぎ りな)が担当させて頂きます。『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』で主に楽曲の実装や全体の監修、そして一部楽曲の制作をしていました!

絵本イベントでは紙にやわらかいタッチの絵が浮かび上がってきて文字通り絵本のように一枚のページが作られる形でシーンが進行していきます。そのページを彩る楽曲は一部を除き、全て辻田 絢菜(つじた あやな)さんという外部の作曲家さんに作って頂きました。

ブログ記事「楽曲のコンセプトについて」でご紹介がありましたように、絵本イベントの音楽はバイオリン1、バイオリン2、ヴィオラ、チェロ、ピアノで構成されたクインテット(五重奏)という小編成の楽曲で基本的に統一されていて、生収録されています。絵本や紙芝居を読み聞かせるときの伴奏のような雰囲気があるんですよね。

制作方針としては、シチュエーションや感情を表現した汎用的なループ曲を制作し、後から各イベントシーンに編集して当てていく、という形をリードの中西さんと山口さんとが打ち出していました。その他、オープニングやエンディングといった大事なシーンでは実際の絵本イベントの流れに合わせて、ループではなくワンショット楽曲として辻田さんにスコアリングもして頂いています。

今回このブログのために作曲者の辻田さんからメッセージを頂いております。

辻田 絢菜さん

最初にこのお話を頂いた時、魔女や妖精といった大好きなモチーフが登場する憧れのゲーム音楽! しかも普段から自身が拘わる機会の多いアコースティックサウンドがコンセプトということで、ドキドキと気合いが入ったのを覚えています。

今回の基本の楽器編成は「ピアノ五重奏」という編成です。ともすれば古びた印象を与える背景をもつ編成なので、ただお行儀の良いクラシック音楽然としたものにならない様に注力しました。クラシカルな編成であっても聞き慣れない面白い音響になる様に、わざと強い力で弦を擦る奏法や、ピアノの弦を弾く内部奏法など特殊な奏法を盛り込んでおり、生楽器による収録のためこれら全てを五線譜に書き起こしています。

ちなみに奏者は普段からクラシック〜現代音楽のコンサートに携わっている皆様です! そんなエキスパートの皆様のお力添えで、ちょっと異世界的で同時にクラシック音楽的な「室内楽作品」と呼べる音楽に仕上がったのではと思います。

物語の終盤にはいくつかフィルムスコアリングの指定がありましたが、特に指定のなかったシーンでも、朗読に合わせて勝手にフィルムスコアリングに近い設計をした楽曲がたくさんあります(笑)。発売されてから実際にプレイしていますが、イベントシーンでは絵本をめくるタイミングを変えると音楽の展開が毎回違う箇所にはまったりするので、これが新たな味わいとなって何度プレイしても面白いなと感じました。

また幾つかのキャラクターに対し、モチーフとなるメロディーや楽器が決まっているのも音楽的に重要な要素の一つです。中には初代シリーズから受け継がれたモチーフも…! 様々に形を変えてモチーフを楽曲に組み込んでいます。ぜひ物語を読み解く手掛かりとして注目してみてください。

「お湯を沸かすのに電気だと火のエレメントが付与できない」という例え話を見かけたことがあります。今はデジタルな技術が進化し、方法に拘らずとも素晴らしい音楽が作れる時代です。敢えてアコースティックサウンドに拘った今回のイベントシーンは、ゲーム内に出てくる「エレメント」のような不思議な力との親和性が高い気がします。

聞こえてくる音楽とその制作方法は直接関係のあることではないかもしれませんが、このようなアイデアは作り手としての拘りの一つで、その方法による音楽制作を任せてくださったプラチナゲームズの皆様には感謝してもしきれません。音楽をはじめ隅々に作り手の拘りを感じる作品に携われて光栄です。

おまじないのようなものですが、人が奏でる音から溢れる目に見えないパワーが、セレッサとチェシャの冒険に少しでも力を与えるものになっていたらと思います。

―辻田 絢菜さんより

素敵なお言葉をありがとうございます!!

辻田さんも書かれていらっしゃるように、汎用曲の制作をお願いする際にはシナリオの該当するシーンを抽出してお伝えし、それらを読み込んで頂くことでイメージを膨らませて頂きました。大まかな楽曲方向性――例えばお茶目な曲調であるとか、危機を煽る曲調である、といったことは指定していましたが、具体的なところは辻田さんの創造力にお任せしていました。各シチュエーションの光景、セレッサの心情、どれもとても豊かに表現してくださっていて、デモをお聴きする度にときめかせて頂いていました!

イベントシーンのループ曲というのは、ともすれば聞き疲れないような一歩引いた曲調になってしまうところもあるのですが、辻田さんに書いて頂いた楽曲は状況を普遍的に表現しつつも、一曲の中に緩急があってドラマ性があって、単体で聞いても楽しく何度聞いても飽きることのない良さがあると思います。実際、楽曲の実装作業やゲームチェックをする度にイベント曲はもう何百回と聞いているのですが、毎回新鮮な気持ちで楽しめて、つい聞き入って作業の手が止まる……なんてこともありました。

本作品のイベントシーンは「絵本」というコンセプトで作られています。ページをめくってお話を読み進めていくイメージ。一般的な全編繋がったアニメーションで見せるカットシーンとは違って、様々な情景の一枚絵でお話を見せていく形になっています。一枚一枚ページを開いていくたびに色がじんわりとにじみ出て、美しい絵を描くのが印象的ですね。

その絵本を読んでいるかのような体験を実現するため、イベントシーンでは一ページの演出が終わったらそのページに留まり、プレイヤーのボタン操作によって次のページが開かれて次の演出が始まる、という仕様になっています。もちろん一ページの演出が終わるたびに自動でページが進んでいく「自動ページめくり」機能も備わっています。ここがデジタルインタラクティブメディアの良いところですね。

しかし違うページの進み方があるということは、音楽の再生方法もそれぞれの進行方法に対応させなくてはいけなくなります。プレイヤーによっては同じイベントシーンでも一ページずつ手動で進めていく場合と、自動でどんどん進んでいく場合があって、いつどのタイミングで次のページに進むのかが分からないのです。そのため、特定のページで音楽を一番盛り上げたい…といった絵と音楽の同期した演出をしたい場合には、どちらの進行方法であっても実現できるように実装する必要があるのです。

自動でも手動でも、どちらの設定でイベントシーンを見ていても同じ体験ができるよう、イベント楽曲をただそのまま使うのではなくて様々な形に編集をして、絵と音楽の一体感を損なわない実装を目指しました(※2)。イントロだけ抜き出して使ったり、曲の途中でループさせたり、ピアノパートだけを使ったり……などです。幸いにも辻田さんには楽曲を自由に編集して使っても良いとの許可は頂いていたのですが、本当にいろんな形で活用させて頂いたので驚かれたシーンもあったかなと思います。

(※2)オープニングとエンディングの絵本イベントではワンショットの楽曲を使っているため、シーンにピッタリ合わせた音楽展開ができるよう手動ページめくり機能は効かないようになっています。

絵本イベント楽曲の実装の例を、アヴァロンの森にセレッサが入って妖精と遭遇し、初めてチェシャを召喚するイベントシーンの一部を切り出してご紹介します。体験版でも見ることができるイベントなのでぜひ実際に遊んでみてくださいね!

♪インゲームから絵本イベントへ繋がる楽曲

 

森の中の妖しい気配が恐くて、急に走り出したことで崖から落ちてしまったセレッサ。その落下地点からまた恐る恐ると森の奥へと進んでいきます。そこで発生するのが、セレッサが初めて妖精に遭遇するイベントです。

プレイヤーが操作するインゲームのところから流れていた不安げな音楽は、絵本イベントまでそのまま継続し妖精が突如現れたところでパッ!と消えます。これも辻田さんに書いて頂いたイベント用の『胸騒ぎ』という楽曲なんですが、このように一連のシーンを効果的に見せるためにイベント開始前のインゲームから流し始めたり、イベント終了後のインゲームにこぼしたり……といった実装をすることがあります。

曲がパッと消えるのは、一般的な手法ではありますが、妖精が映し出されるタイミング(映像フレーム)に停止命令を仕込んでいるからです。プレイヤーがイベントを任意のペースで見ていて、ページが進んでこの瞬間を通り過ぎたときに停止命令が働くことで曲が止まるようになっています。

では続きをみてみましょう。

♪楽曲の途中でループ

 

妖精が現れ、その名前が表示されるキメカットのところから『どうしよう!?』という楽曲が始まります。辻田さんにはこの絵本イベントのシナリオ部分や他の似たようなシチュエーションのシナリオ部分を読んで頂き、汎用曲として作曲して頂きました。

実装の解説の前に、まずこの楽曲の完成版を聞いてみてください。

♪『どうしよう!?』の完成版

 

完成版は、全体が1分強の尺で、曲の終盤に向かって緊迫感を増し盛り上がっていきます。今まさに襲われる!と思わせるようなクライマックスが最後にあり、そしてまた楽曲の始めのほうにループする構成となっています。

ではもう一度動画の00:52~をご覧いただきたいのですが、完成版とは違って曲のとある部分まで進んだらずっとそこをループしていますね。この楽曲の一番盛り上がるクライマックス部分はイベントシーン中盤の妖精が飛び掛かってくるところに合わせて使いたかったので、そのページにいくまでは曲がクライマックスまで進まないよう直前のフレーズで留まってループするように編集し実装しているんです。

セレッサが悪魔召喚の呪文を唱えたところで曲をまた停止しています。呪文は成功したのか?!何か出現するのか?!奇跡よ起きてくれ!! そんな感情になれる効果を狙ってここは無音にしました。

さらに続きをみてみましょう。

♪楽曲の途中から再スタート

 

息をのむ静寂――でも何も起きない。

一瞬ひるんでいた妖精たちが再び動き出しそうなところで『どうしよう!?』の先ほどまで鳴っていたループ部分から再び曲が始まります。実際に妖精たちがセレッサに向かって飛び掛かってくるまさにその時!というシーンはもう少し先のページなので、曲のクライマックスまではもう少しお預けです。

動画の00:39~でついに妖精が飛び上がってセレッサに襲い掛かってくるページにたどり着きました!

このページの頭のタイミング(映像フレーム)に曲のループしていた部分から次のクライマックス部分まで進ませる命令を入れています。ただし、その命令が来たからといってループ部分をすぐに止めて次のフレーズを再生しているわけではありません。依然一つの繋がった楽曲として聞こえるように、1ビートの単位で次のフレーズに切り替わるように設定にしているんです。リズムが崩れることがないままループ部分からクライマックス部分へと切り替わる、というイメージですね。

辻田さんのイベント楽曲を思いっきり加工させて頂いた例としてもう一つご紹介いたします。

♪だんだんエフェクトが掛かっていく楽曲

※音声と効果音を消音にしています

最後のエレメント・コアを探して森を進んでいたセレッサとチェシャが、道中ある衝撃的な出会いをします。

その絵本イベントの途中から再生し始める『温もり』という楽曲は、絵本イベント終了後のインゲーム部分でも続けて再生されます。プレイヤーはセレッサを操作して前へと進ませる必要があるんですが、衝撃を受けているセレッサの足取りはおぼつかないです。

セレッサの心情、目の前に現れた人物のただ事ではない雰囲気――そんな混乱といったものを表現するために、セレッサが前に足を踏み出して近づくたびに音がぐにゃりと湾曲していくようなエフェクトを楽曲に掛けています。

最も近づいた時なんて、なんとかメロディーは聞き取れるけれど音色はもうあまり原形をとどめていませんね。元はとても優しく切ない曲だったのが空恐ろしい雰囲気になりました。でもそれがまた切なさをさらに強める演出になるんじゃないかなと思います。

サントラ発売の決定を記念して、今回ご紹介した絵本イベント楽曲の楽譜を一部公開いたします!ぜひダウンロードして、ご自身で演奏してみてください!

ゲームでの使われ方と楽譜とを比較して、どんな風に原曲を活かして編集しシーンに合わせていったのかを見つけて頂けると幸いです。いずれも辻田さん作曲による胸に刺さる素敵な楽曲ばかりです。

『どうしよう!?』の楽譜

 

♪ゲーム実装版『どうしよう!?』を聞く

 

『温もり』の楽譜

 

♪ゲーム実装版『温もり』を聞く

 

更に出血大サービス!

ブログ記事「楽曲のコンセプトについて」にてイベントシーンで流れる音楽として紹介された楽曲、『少女と悪魔』の楽譜も公開いたします。セレッサとチェシャの関係性が表現された、とても重要な位置づけの楽曲の一つです。こちらもぜひゲームと比較しながらお楽しみください。

『少女と悪魔』の楽譜

 

♪ゲーム実装版『少女と悪魔』を聞く

 

今回取り上げたイベント以外にも楽曲を編集してシーンに合うように実装している箇所はたくさんあります。絵本イベントに限らず、インゲームにおいても制作された楽曲の完成版とは違う形で加工したり一部を抜き出したりして実装している部分はあります。

最初からインタラクティブに実装することを想定して書かれた楽曲もあれば、その予定では無かったけれどゲームに合わせて工夫して実装したほうがプレイ体験がより良くなれるかも!と思い、後から大胆に編集した楽曲もあるんです。

一曲の繋がった作品として作曲してくださったものに手を加えるのは胸が痛むことではあるんですが、でもきっとプレイしてくださった方々により良いメッセージとして届くから!より良い体験として心に刻んでもらえるから! ……そう信じて実装しています。

皆さんのこのゲームの思い出の中に何かしら残せていたら嬉しいです。

 


優宜 理奈
Rina Yugi

カリフォルニア州立大学を卒業し、帰国後の2009年に大手ゲーム会社に就職。アーケード、コンシューマー、モバイル向けのゲームタイトル制作に携わる。2020年プラチナゲームズに入社し、本作の制作チームに加わる。