みなさまはじめまして。コンポーザーの宮内です。『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』ではステージ曲や、一部カットシーン楽曲、そして多くの演出ジングルの制作を担当していました。

ここでちょっとした告知です。『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』のサウンドトラックが12/20(水)に発売されるのをご存じですか?

ディスク6枚組、全150曲収録となっており我々の楽曲解説(※)も読めるようになっているので、より深く今作の音楽を堪能したい方はぜひぜひチェックしてください!

ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔
オリジナル・サウンドトラック


発売日: 2023年12月20日(水)
発売元: WAVE MASTER ENTERTAINMENT
公式HPはこちら(予約受付中):
https://www.wave-master.com/ent/bayonetta-origins-ost/
ダウンロード/ストリーミング:https://nex-tone.link/A00134426

(※)サウンドトラック同梱のQRコードから全曲解説を見ることができます。

 

それでは本題に入りましょう。今回はジングルを中心に、今作でピアノが担った表現について語っていきたいと思います。

「楽曲のコンセプトについて | ベヨネッタ オリジンズ 開発ブログ(記事リンク)」にて紹介がありました通り、今作は楽器の素材感を大切に、「小編成の繊細なアコースティックサウンド」を音楽のコンセプトテーマとして取り扱っています。

楽曲コンセプトの方針に沿って、今作ではアコースティック楽器として一般的に馴染み深い(?)ピアノを作品全体のコンセプト楽器として扱いました。ジングルは基本的にピアノで統一し、楽曲にも積極的に取り入れて全体のサウンドに統一感が出るよう狙っています。

理由としてはまず以下の要素が挙げられます。

・『ベヨネッタ』の楽器と言えば過去作でも多用されたピアノのイメージが強く、継承して使用したい
・絵本=身近で親しみやすいもの、子供向けの本というイメージ。幼いころから身近な存在の楽器を連想するとピアノなのではないか

そして今作では、『ベヨネッタ』シリーズ通してのダンス表現として、キャラクターの動きにクラシックバレエの要素が新しく加わっています。セレッサの衣装もレオタードをベースにデザインされているといった変化がありますね。(バレエ団の練習というとピアニストが傍らにいるイメージが個人的にはあります)

過去作でもピアノは多く使われてきたと書きましたが、

・今作は大人ではなく幼いセレッサであること
・小編成の繊細なアコースティックサウンド

さらに今作の特徴である

・バレエモチーフ

から、ピアノという楽器はシリーズ共通の要素ではあるものの、今回は過去作とは異なったサウンド感を持ってその役割を果たす必要があるのだと、リードコンポーザーの中西さんと話していた時に私は感じていました。

そもそも、ピアノはゲームや映画をはじめとした様々なメディアミュージックによく出てくる楽器ではないでしょうか。時には沢山の楽器の中の1パートとして、時にはピアノソロで抒情的に。音楽としても楽器としても人々に馴染み深い楽器かな~と思います。

今作の特徴を表現しつつ、過去に様々な作品で用いられてきた”ピアノ”という表現をさらに一段階深める為に、まず以下の基本的なピアノの要素に立ち返りつつ、挑戦箇所を探りました。

・低音から高音まで広い音域を単体で演奏可能
・音色としての煌びやかさ、粒立ち
・複雑な響きを奏でることが出来る

中でも「複雑な響きを奏でることが出来る」という部分に関しては、いわゆる楽曲を構成する『リズム』、『コード』、『メロディ』コードの部分にあたり、表現において無限の可能性がある部分だと私は思っています。

ジャズっぽい音楽(=コード感がお洒落、ムーディーな雰囲気)は元々の『ベヨネッタ』シリーズが持つ音楽性という事もあり、私はネオソウルやモダンジャズをはじめとした近年のジャズシーンで見られるような、洗練されたどこか涼しいような響きであれば、今作が持つ、幻想的な雰囲気の表現として役立つのではないかと考えました。

隙あらば楽曲にエッセンスや技法として取り入れつつ、表現の拡張に努めようとひっそり企んでいたわけですね。

ジングルは特にゲームの中で瞬間的に訪れるので、音の響き方から生まれる情景を重要視していました。

では、前置きはこれくらいにして、ここからはゲームで登場した色々なジングルを紹介していきたいと思います。

・・・そう!

ピアノ楽譜と一緒に!(今回のブログの為に書き起こしました。)

 


いかがでしたでしょうか?

興味のある方は弾いてみてください。弾き易い物から挑戦的な物まで取り揃えております!

アコースティック感を意識し、現実的に演奏可能な物として制作しています。

よし、やっつけたわ! 〜戦闘勝利ジングル1~

戦闘勝利演出のジングルになります。最後のガッツポーズに合わせ、絵合わせで作りました。幅広い音域を駆け巡り、勝ったときの高揚感を助長するように意識しています。

⼤したことないわね 〜戦闘勝利ジングル2〜

簡易戦闘勝利演出のジングルになります。こちらはさきほどの「よし、やっつけたわ! 〜戦闘勝利ジングル1~」と繋がりを感じられるように、最後の粒立ちが細かい部分から組み立てました。涼しい響きにするために、4度といった凛とした音のインターバル(音程)を多く含めています。

わくわくどきどき宝箱! 〜豪華宝箱開錠ジングル〜

ボス等を撃破した後、取得できる豪華な宝箱の開錠ジングルになります。こちらは響きでキラキラ感を出すために、テンションノートと呼ばれる基本形のコード(和音)に追加していく、響きが豊かになる音を少し足しています。響きの主軸となる最低音も、一般的なコード進行とは異なる進み方をしているので、マジカルな雰囲気が出ています。

思い出の景⾊ 〜思い出のしおりジングル1〜

思い出の一枚絵をステージ各地で取得する際のジングルになります。森の中に生まれる暖かさを出すために、3回ある音の鳴りの後に「フッ」と生まれる音の深み、調和感を意識しています。使う音の配置の選択によって響き方の印象がガラっと変わるのが面白い部分です。「ヴォイシング」と言ったりしますね。

隠れ家、⾒いつけた 〜魔⼥の隠れ家発⾒ジングル〜

森の各地に存在するセーフエリアの解放ジングルになります。トーチに火が灯るような絵の表現だったので、瞬間的な達成感と余韻を感じるように作りました。

オレの⼤好物 ⾏儀よく 〜インフェルノフルーツ獲得ジングル3〜

チェシャ用の強化素材を手に入れる際の演出ジングルになります。可愛い演出だったので、すぐ「これは絵合わせにしないと(使命感)」と中西さんにウキウキで曲をチェックしてもらった思い出があります。最後の3オクターブ分の駆け上がりはうまく弾けた試しがありません…

みんなの勇気 〜ムーンパール獲得ジングル3〜

セレッサ用の強化素材を手に入れる際の演出ジングルになります。こちらも絵合わせで作っています。私が一番気に入っている演出ジングルなのですが、前項で書いていたジャズからの影響をここでふんだんに盛り込んでいます。切ないような心がギュッとする感じがありますよね。効果音を上手く合わせてくれたSEメンバーには感謝です。

もう⼤丈夫よ! 〜ヒトダマ救出ジングル〜

最後に、各地でひどい目に合っているヒトダマを助けた時のお礼ジングルになります。これはもう愛嬌一発ですね。実はテーマ曲“Le Chéile i bhForaois Sholas na Gealaí (英訳:Together in the Moonlit Forest)”の歌い出しをもじっているんですよ。

さてさて、今回紹介させていただきました8つのジングルも、前回と同じく(記事リンク) 、アートディレクターの西井さんの力添えを頂き、楽譜を配布できることとなりました。まさか楽譜まで公開出来るとは思っていなかったので嬉しい限りです。ぜひ楽しんでください。

⼩さな魔⼥と悪魔の⼩曲集の楽譜

 

いかがでしたでしょうか。耳で感情や情景、色を感じさせる役割を持つゲーム音楽は、言葉にするのが難しいなあと感じる事がよくあります。様々な彩りを持つ響きの可能性を、今回紹介したジングルで感じ取っていただけましたでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 


宮内 雅央
Masahiro Miyauchi

2020年 東京音楽大学 作曲指揮専攻 作曲「映画・放送音楽コース」(現ミュージック・メディアコース)卒業のち、プラチナゲームズ株式会社へ入社。「ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔」ではコンポーザーとしてインゲーム楽曲をはじめとした様々な楽曲を制作。