ディレクター ティナリ


皆さん、こんにちは!ディレクターのティナリです。

このブログ記事を読まれているなら、もうすでに本編をプレイした方も多いことでしょう。「実際に手に取ってプレイしてみると、想像してたより楽しかった!」そういったコメントもよく見かけます。PVなどの映像が各種公開されていますが、映像だけでは伝わらないこの “感覚” をもっと多くの人に知ってもらいたいです。まだプレイされていない方は、少しでも興味があればぜひ無料体験版を触ってみてください!!

さて、このゲームを一言で表すと皆さんは何と言うでしょう?おそらく「絵本みたい」という言葉がすぐ頭に思い浮かぶのではないでしょうか。今回、まさしく本作のモチーフとなった「絵本」についてお話ししたいと思います。

開発の初期に僕が遊びのコアにある「同時操作」などを定義して、プロトタイプを作り始めました。しかし、遊びの検証が進んでいる時に何かが物足りないと感じました。ストーリープロットはある。テーマソングはある。遊びのコンセプトはある。ただ、そういったパーツを結び付ける「何か」がまだ欠けていたのです。その時、アートディレクターの西井が光を灯してくれました。

この後、西井自身から詳しい説明がありますが、先にちょっとだけこの絵本というモチーフに心が奪われた理由を説明させてください。

子供の頃、両親と一緒に絵本をよく読みました。しかし、本格的に好きになったのは大人になってからです。日本に引っ越して日本語を勉強するために読めるものをずっと探していました。教科書の例文はつまらない、逆に面白そうな小説や漫画だと知らない単語だらけで、当時の語彙力では読むのが至難の業でした。その時に出会ったのは「絵本」でした。

絵本はわかりやすい言葉で意外と奥深い物語を紡ぎます。お話の内容はシンプルなものの、その中に秘めているテーマは人間の根本的な共通体験に触れて普遍的な魅力があります。「絵」のおかげで展開が分かりやすくなり、表現する幅も広くなって、読者の想像を膨らませます。

西井がゲームのモチーフを絵本にすると提案した時、当時宙に浮いていた様々なアイディアが一気にはまったように感じました。本作の物語は、セレッサが禁断の森に足を踏み入れて冒険に出る、というものです。まさに絵本らしい設定ですね!そして、このモチーフのおかげで絵本を朗読しているような「ナレーター」の声もうまく合致しました。本作はセレッサの内心的な成長がポイントなので、ナレーターが彼女の思想や感情を語ったり、冒険のパートナーとなる悪魔のチェシャのセリフもナレーターを通じてプレイヤーに伝わります(※)。

(※)ベヨネッタの世界では悪魔は「エノク語」という言語を話すため、私たちには理解できません。チェシャの声について詳しくはこちらの記事をご覧ください:https://www.platinumgames.co.jp/dev-bayonetta-origins/article/56

開発中に参考として使っていた絵本。普段はちゃんと棚に並べています(笑)

絵本モチーフがうまく機能するのはストーリーだけではありません。Lスティックでセレッサ、Rスティックでチェシャを操作するため、開発の初期からカメラを固定させることを決めていました。カメラが必然的に上から見下ろした視点になりましたが、これはまさに本のページを見下ろしているような感覚をプレイヤーに与えます。そして、ページに線と色が描き足されて目の前に世界が表れる描写を活用することで映画チックなカメラの動きがなくても世界が動的に感じられます。

開発が進むにつれ、様々なアーティストがチームに加わりました。絵本モチーフをベースに開発メンバー一人ひとりが自分の得意分野で貢献してくれて、少しずつゲーム全体のビジュアルができあがりました。コンセプトアートが3Dモデルやアニメーションによって動き出し…まるで絵本の中を進んでいくかのようにアヴァロンの森を実際に歩き回れるようになり…絵本の表紙がゲーム起動時に表示される「タイトル画面」になり…さらにメニューやマップの画面でさえも絵本の1ページになってもおかしくないぐらいの出来になりました。

そして、このゲームは何といっても…めちゃくちゃきれいです!!(←一貫性や統一性なども大事ですが、「きれい!」という直感はもちろんないがしろにできませんw)

さて、このモチーフをゲームに落とし込んだ経緯について直接西井アートディレクターから話してもらいましょう!

 


アートディレクター 西井


はじめまして。『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』アートディレクターの西井です。本作の見た目に関わる箇所全体の監修とキャラクターデザインを担当しています。アート関連の初回記事ということで、アート全体のモチーフ・方針の話をさせてくださいね。

本作のアート全体のモチーフは“絵本”です。これを選んだ理由について、身も蓋もない言い方ですが直感というのが一番しっくりきています。それらしい事を言うのなら、スピンオフなら本編でやらない表現を見たい、テーマやプロットに絵本っぽさを感じた、セレッサとチェシャの魅力を描くには普通のリアル系の絵では勿体無いと思った等、理屈の後付けは色々出来ますし、これも嘘ではないのですが、とにかく始めに本作の概要を説明された時点で「これは絵本だな」という確信がありました。確信してしまったのでその勢いのまま提案したところ、ディレクターの琴線に触れるものがあった……のかな……そうだといいなと思います。そこからまず主人公のセレッサの(絵柄)デザインを詰めていきました。

“ベヨネッタ”に関係するのならお洒落であれ!でも今回は少女だから本編よりは可愛らしく、親しみを覚えるキャッチーさもほしい……等々、細かい事をアレコレ考えながら新しく絵柄を作りました。

上記で決めたセレッサがいる世界はただの茂み、ただの石でもお洒落あるいは可愛くしてくれ、という絵です。セレッサを中心にすべての要素を組んでいったと言っても過言ではないですね。

最小単位の木や石よりもう少し視野を広げました。補足のメモにオノマトペのゴリ押しが漏れ出ていますが、伝われば良いんです、伝われば。

この辺りからアーティストに背景やコンセプトアートをお願いしたり、画面全体を飾ったりまとめたりしていきました。

また絵本というモチーフが決まってから割と早い段階で『セレッサと迷子の悪魔』では要素はページの中で完結させる、と決めました。一口に絵本モチーフと言っても、スタッフ各人が想像する絵本にはバラつきがあります。世の中には絵本風を謳っているゲームも色々ありますが、仕掛け絵本であったりペープサートっぽかったり、要は“絵本の外”を感じる事も珍しくありません。スタッフからの提案にも最初はそういったものが多かったのですが、それはもう他で散々見たし、わざわざウチでやらなくても良いと判断し、本作は全て絵本のページに描かれたものであることをチームに浸透させていきました。遊びやすさや表現のため、少しばかりの例外はありますが、この決定によりキャラモデルや背景はもちろん、シネマイベントやUIエフェクト等ビジュアルの監修方針が定まったように思います。

これが最終的にどういうモノ作りになったのか、さも自分の功績のように語るのは心苦しいので詳しくは今後各スタッフに書いてもらうのですが、上記の前提があったからこそ生まれた要素かも?という点を少しだけ程度にご紹介します。

立体感を出さない、平面への塗りを感じさせるシェーダ表現

被写界深度・空気遠近のかわりに線画・塗りが伝わるような遠近表現

位置を固定しないテキスト込みの画面レイアウト

手描きではあるが落書きではないHUD

手描きアニメーションエフェクト

特にエフェクトは大ベテランがいるセクションだったので、ギラギラすな!3D感いらん!レンズフレアは“カメラ”の表現!!等々、随分甘えてゴネた記憶があります。そうでなくても各所に「コレ目指してる絵本っぽくないんでダメです」を嫌というほど聞かせてしまいました……。スタッフからすれば門外漢がやいやい煩かったでしょうが、それでも結果として全体に一貫性のあるビジュアルになったのではと思っています。いかがでしょうか。

この記事を読んでいるということは、多少は本作に興味を持っていただけているのだと思います。入口は人それぞれですが、素敵なページをたくさん描いたつもりなので、ビジュアルが購入理由になれたら嬉しいです。

改めて『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』を、どうぞよろしくお願いいたします。

 


ティナリ アビビ
Abebe Tinari

カナダのバンクーバー出身。2009年に来日し、2013年にローカライズスタッフとしてプラチナゲームズに入社。『ベヨネッタ2』の英訳に携わった後、ゲームデザイナーに転向。『スターフォックス ガード』をはじめとする複数のタイトル開発に参加し、『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』で初のディレクターを務める。

 

西井 智子
Tomoko Nishii

2011年にプラチナゲームズ入社。エンバイロメントアーティストとして『The Wonderful 101』に携わり、その後コンセプトアーティストとして複数タイトルに参加、『NieR:Automata』では絵本パート等の一部原画に携わる。『ベヨネッタ オリジンズ:セレッサと迷子の悪魔』ではアートディレクターとしてキャラクターデザインとビジュアル全体の監修を担当。