こんにちは、キャラクターモデリングアーティストの山口です。社会人になって一年が経とうとしています。プラチナゲームズに入社する前に通っていた専門での学院生活が少し懐かしく感じられます。

前回の記事では、その専門学校で映像デザイン科という学科に所属していながら、なぜ映像ではなくゲーム業界を選んだのか?という部分に軽く触れましたが、今回は実際にゲーム業界に入ってみて、改めて気が付いた“何かを伝える手段”としての映像とゲームの違い、そのお互いの強み、表現方法から、ゲームモデルを効果的に見せるための工夫に焦点を当てて書きたいと思います。


何を目的として作品を制作するのか。
作品を見る人、遊ぶ人に何を伝え、何を感じてもらいたいのか。

ゲームはインタラクティブな性質があり、プレイヤーの動きたいように主人公(操作キャラ)を動かせるので、映像をただ見ているよりもプレイヤーと主人公がリンクします。そのため自分で選択、行動し冒険を行っている感覚がゲームの面白さとなります。主人公や登場人物に対する共感も強まるため、感情移入もしやすくなるのではないかと考えます。

一方、映像作品は、制作者がカメラワークを1カット1カットで決めて自分の伝えたいことを表現していくものです。より正確に伝えることに特化している手段であると感じます。

そしてここがゲームにはできないことです。



例えばゲームで巨大クリーチャーと戦闘を行う場面があるとします。その場面では、プレイヤーには敵の巨大さとその迫力を伝え、危険なクリーチャーと戦っているという焦りを与えたいものとします。

このとき、場合によってはイベントシーンとして、意図したものをより効果的に見せるための映像を挟むこともあると思いますが、アクションゲームはプレイヤー自身が、好きなタイミングで好きなアクションを起こすところに楽しさがありますから、当たり前ながらずっとイベントシーンで通す訳にはいきません。

けれどもインタラクティブなアクションの中では、どのカメラワークでどの行動をとるかはプレイヤー次第。敵の見え方も演出も構図もその時のカメラワークによって変わってしまいます。

これが映像の場合なら、クリーチャーの巨大さを強調させるためのカメラワークや、主人公との距離感によって迫力の出る構図、そして危険度の伝わる効果を、1カット1カット決めることができます。そして何度も細かな調節を加えていきながらその1シーンを作り上げさえすれば、再生時に後からカメラワークが勝手に動くことは無いので、狙った通りに見せることができます。しかしゲームではそのシーンがプレイヤーのプレイした数だけあるわけですから、それを想定して映像のように作りこむことは非常に難しいです。


では、その制約の中でできることは何でしょう?

端的に言ってしまえば、360度どんな角度から見ても、巨大感があり、迫力が感じられ、焦ってしまうほど危険だということを伝えることなのですが、ゲームデザインが決まっていれば、ある程度それに基づいた想像ができるため、注力すべき部分を絞り込むことができます。

巨大クリーチャーであれば、下から見上げながらの戦闘になるかもしれません。その場合、プレイヤーの視点からどんな風に見えるかを想像しながら、下から見たときのシルエットのかっこよさに注力し、迫力を感じさせるような造形を目指します。

危険なクリーチャーという設定、これもそのクリーチャーの攻撃を想像します。ストンプ(踏み付け)攻撃で潰されたら死ぬ! と思わせたいなら、重量感のある造形を。突進攻撃を即死並みの恐ろしいものに感じさせたければ、鋭く強靭な角を。これで攻撃されたら危険、という状況を先に想像しながら作っていきます。

後者はあくまでデザインが詳細に決まっていないものや、こちらから提案できる状況においての話になるかもしれませんが、実際に伝えたいことや感じてもらいたいことが伝わらない戦闘になっていた場合、造形やデザインに問題があるかもしれません。

私はデザインを提案する機会があったため、先輩からアドバイスなどを聞いて上述のような考え方でゲームモデルを作ったり、他のゲームなどに登場するクリーチャーもそういう目で見るようになりました。

そんなことか……とがっかりされた方もいるかもしれませんが、つまりゲームでは映像のようにシーン自体を意図的に作りこめない分、限られた“想定して作りこめる部分”を映像よりもはるかに重視して制作する必要がある、ということです。
プレイヤー目線で考え、対峙した時にちゃんと与えたい印象を抱くかどうかを想像する。制作者も、制作者だからこそ、プレイヤー視点で作る。これが大事なんだとゲーム開発に携わるようになって体感しました。


エフェクトやアニメーションにも同じようにゲームならではの効果的な見せ方があると思いますが、今回はキャラクターモデリングアーティストとして出来ることを挙げてみました。ただデザイン画に忠実に作れば良いということでなく、何のために作っているのかを考えれば、自然とプレイヤー視点で作るのが大事だということに行きつくと思います。

日ごろから常に、見た映画、遊んだゲームから自分が感じた印象、怖い、かわいい、かっこいい……どうしてそう思うのか? というのを無意識に観察できていれば、その要素が必要になった時に造形に活かせると思います。クリーチャーを作るからといって、他作品のクリーチャーや生物だけを参考にする必要はありません。鉱物、家電、絵画、色……印象的な、目に見えるものなら何でもいいです。

実在する動物の要素を、架空のクリーチャーに足すと現実味という説得力が増すように、実際にあるものを取り入れることで形の説得力が増します。私も、普段からアンテナを張り、良いものを見て引き出しを増やすように努めています。

最後に

今では“ネット”という、参考になる作品や画像を沢山探して見ることのできる環境が当たり前にあります。時には本物を見るのも大事ですが、ネットなら手軽に見られるので、簡単に自分の引き出しを増やせます。思えば学生時代はCG関連の書籍やネットのページに沢山助けられました。今でもそうです。それが仕事で、対価があったとしても、世界中の先輩アーティストさんから学んだ技術は、その方が今まで積み上げてきたものであり、財産です。それを誰でも簡単に見られる場所に公開するというのは、なかなか難しいことなのではないかなと思います。自分の書かせて頂いている記事は全く大した内容ではありませんが、文章力が無いのでとても苦労していることもあり、それらの情報を改めて有難いと感じました。

自分もまだまだなので、より伝えたい印象を的確に伝えられるような、効果的なデザインや造形を出来るよう頑張りたいと思います。




yamaguchi
山口 穂乃歌 Honoka Yamaguchi
長野県の安曇野出身です。東京の2年制専門学校で映像系のCGを学び、現在はキャラクターモデラーとして活躍中。クリーチャー制作を得意としている。

過去記事:
アーティストとして私が会社に勤める意味って? 新たな環境の社会生活で得られたこと。