こんにちは。キャラモデラーの山口です。

ヘッダーの画像は、学生時代にリアルタイムレンダーの練習として、初めて作った映像のスクリーンショットです。専門学校を卒業しプラチナゲームズに入社して半年以上が経ちました。今回はブログを書かせて頂けるとのことで、自分が会社という初めての環境で苦悩したこと、そこから経験したこと、それによって得られた目標について書きたいと思います。

自分は長野県の安曇野出身で、高校卒業後CGを学ぶために東京の専門学校へ2年通い、プラチナゲームズに入社しました。専門に通うために東京へ出向き、寮生活ではありましたがほぼ一人での生活を経験した私は、また知らない土地に移って就職するのもそんなに変わりはない、そう思っていました。ですが、いざ移り住み、初めての社会人生活。会社という組織に入った途端、自分にとって今までで一番大きな壁にぶつかりました。

その壁ははっきり言ってしまえば、“会社”という場所に心から馴染めない、納得できない、ということでした。私は学校がそうであったように、会社でも自分が技術的に成長することを望んでいて、それがCGを仕事にする上での自分の中での理想でした。私は架空のクリーチャーの絵を描いたりモデルを制作するのが好きなのですが、映像系の業界ではなくゲーム業界を選んだのも、そのほうがより幅広く、より多くのモデルを手がけることができて、経験が積めるからという狙いがあったからです。プラチナゲームズを選んだのも、この会社なら自分がより良いと思ったデザインを提案できる環境があると感じたからでした。

しかし会社という組織に入った以上、キャラモデルを作ること以外にも組織の一員としての仕事があります。一年目は社内行事の事前準備から当日まで運営の仕事があったり、議事録をまとめるのに時間を取られたり。それぞれ分野の違うタスクが重なり、その都度頭を切り替えて臨機応変に対応しなくてはならないため、アーティストとしての個人の作業だけに集中することが出来ませんでした。

それらは結果的に会社全体として作品を作ることに繋がる大切な仕事なんだと思ってこなしていましたが、心の底では学生時代と同じように画面にかじりつき、ずっと作ることだけに集中していたいという願望が大きく、会社という場所はそれを叶えるのが難しい環境だとわかって、毎日モヤモヤしていました。嫌だと思うと、とことん嫌になってしまう性格で、理想とは違う環境へのモヤモヤ。その“会社”という新しい環境になかなか対応できず、悩みに悩む毎日でした。

しかしそんな毎日を過ごしているうちに、常に悩みを抱えているからか、普段は気が付かないような気付きを、出来事や人の言葉から沢山得られました。それは一番大切な人との喧嘩だったり、会社の先輩との何気ない会話だったり、すすめられて観た映画だったり、時にはたまたま見つけたネットの記事の中から。気付けばそれらの物事に、いつも以上に考えさせられていました。自分と相手、自分と映画や記事の内容を重ねて、自分はそうなってないか、相手だけでなく自分にも意地を張って自分の本心を捻じ曲げていないか。自分を客観視して自分に向き合うことになりました。

自分に向き合っていくなかで、具体的には自分の作ることに対しての目標、クリエイターとしての一生の目標について改めて振り返りました。そもそも何のために技術を習得したいのか?とモヤモヤの発端とも言える単純な疑問。もちろんそれは目標を達成するための筈。私はずっと、自分の作った作品で人を感動させたいという目標を掲げてきました。普段ならば、それが疑問の答えとして終わっていたと思います。

ですが、正直に自分と向き合った結果、そもそも自分は何のために人を感動させたかったのか… 感動させてどうしたかったのか… 思えばそこまで深く考えたことが無いことに気が付きました。今考えると、ただ、好きなことを仕事にする上でなにか大きな目標を追いかけたい。そう思って、目標を立てて掲げていただけだったのだと思います。

ですがそうして自分を客観視したことで、大きなことに気が付きました。当初は私の悩みとは関係の無いことだと思っていましたが、前述した大切な人や会社の先輩の言葉、おすすめしてもらった映画、誰かの書いた記事、誰かの作った曲、誰かの書いた本… 自分の中だけでは知りえなかったものを、人の言葉の中から、人の作り出したものの中から、得られたこと。それら全てが私に自分自身を振り返るきっかけを与えてくれていました。

それに気付いた時、私は初めて心からの感動を覚えました。いままで掲げていた、人を感動させる作品を作りたいという目標の“感動”がどんなに空っぽなものだったのか… 私が彼らの作品から気付きを与えられたように、私も自分が作り出したもので、悩みを抱えている人へのヒントになるような、誰かがその誰か自身を見つめ直す「きっかけ」を与えたい。その強い思いに行き着きました。

人生の目標を見つけて、今は何をしなくてはいけないのか。何が足りないのか。何を達成すればその目標に近づけるだろうか。そして現在、生活の多くの時間を過ごしている会社という場所、この環境で学ぶべきことは何なのかを考えました。

自分の目標を達成するための方法として、映像、本、曲など前述のきっかけを与えてくれた出来事のように手段は沢山あります。私はもともと、架空のクリーチャーのモデル制作やデザインの実力を付けることを大きな目的として、このゲーム業界を選びました。ですがプラチナゲームズで働いているうちに、ゲームというコンテンツの面白さや可能性、各業種それぞれの視点から“伝えたいこと”に適した表現を追求しているクリエイターが沢山いることに気付きました。そして、ゲームだからこそできる表現の魅力を学べば、もっと多様な伝え方ができるのではないか、とも考えました。(実際にいくつか面白いと感じたこともありましたので、それは次回の記事に書きたいと思います)

今はただ目標を立てるのではなく、目標に向かってこれからどうしていくか、今の環境でできることは何か、と達成までの過程を追求することに意味があると感じています。それを経て会社で学びたいことが明確になった今、会社ならではの煩わしさや、モヤモヤすることがあっても純粋に頑張ろう、乗り越えようという気持ちでこなすことができています。また、事前準備や運営で大変だった忘年会も、同期みんなで考えた新しいゲームに盛り上がる会場を見て、達成感を感じることができました。

■最後に
成長したい時にするべきことのひとつとして、住む場所を変えるなど、身の周りの環境を変えるといいという記事を読んだことがあるのですが、自分が実際に体験した今、本当にその通りだなあと思っています。この業界への就職を希望している方で「あの会社で働いてみたい。あの会社に入って自分は成長したい!」と本気で思っている方は、その会社が知らない土地や遠方だったとしても、その環境に思い切って飛び込んでみるのをお勧めします。

私のように思わぬ経験が、思わぬ発見や成長に繋がるかもしれません。

私はプラチナゲームズに入って、本当に書ききれないくらい沢山の学びを得ました。前述したとおり苦悩する時期もありましたが、今では会社という組織に入ることで得た良い経験だったと感じています。なにより、一生の、クリエイターとしての目標を見つけるきっかけを与えてくれたこの環境に感謝しています。

長々と正直に書いてしまいましたが、これからも自分の正直な気持ちに従って、変化を恐れず、常に自分の行動に最善を尽くしていきたいと思っています。

文章として表に出すことで、これも誰かのきっかけのひとつになることができたら幸いです。ここまで読んでいただき有難うございました。

2回目のブログでは、この会社で自分がもっと学びたいと思った事柄。それと関連して、ゲームモデルをつくるために何を意識して、どのような点に注意しながらモデルを制作しているかを書けたらと思います。




yamaguchi
山口 穂乃歌 Honoka Yamaguchi
長野県の安曇野出身です。東京の2年制専門学校で映像系のCGを学び、現在はキャラクターモデラーとして仕事をしています。クリーチャーを制作するのが好きです。