初めまして、ゲームデザイナー2年目のマーリュスです。

まずは、以下の文章を読んでいただく前に、以前マイナビに載せてもらった記事を紹介します。

“人の言うことは聞かないこと。”

こんなことを書いてはいますが、それでも僕が考えることに興味がある方は、以下を読んで頂けたらと思います。

今回の記事のタイトルにある「石頭」は、言葉通り「石のように固い頭、ものの考え方が固定していて融通がきかないこと」で、物事を一つの観点からしか見ることができなければ、新しい発想ができず、クリエイティビティにとって致命的な支障が出ることから、「天敵」と表現しました。

僕は大学で文学や歴史などを研究してきたので、人間が既知のものを頼りにすることや、それにもそれなりの価値があることはわかっているのですが、「今までそうしてきたから、それが正しい道である」という、「伝統」と呼ばれる考え方は進化と淘汰の妨げになることが多いため、ゲームデザイナーの仕事においても日常生活においてもなるべく棄てたいと思っています。

例えば、友達とランチに行ったとします。メニューには、よく食べていてある程度美味しいことが保証されている好物のものと、美味しいかどうか全く分からない、食べたことがないものがあります。この記事をお読み頂いているあなたは、どちらを選びますか? 僕は、その時の気分にもよりますが、美味しくないリスクがあったとしても、敢えて食べたことがないものを選ぶように心掛けています。なぜならば、メリットが少なくとも二つあるからです。まず一つには、それが好物より美味しいということを発見する可能性があります。もう一つは、知っている味が増えるという知識の蓄積があります。実はこの二つのどちらも以下に述べる「客観性」に繋がるので、ゲームデザインを行ううえでも、とても重要です。

人が物事を観るとき主観的になりがちなのは、あらゆることを自分の身体だけを通して体験しているため仕方がないことでしょう。他の人との交流や、その地域、国、文化に影響されて視野が広がっていくことはありますが、物事に対する観点が一つだけでは、新しい発見の確率は低くなってしまいます。なので、僕は頭の固いおじさんにならないように、そして自分のクリエイティビティを育むためにも、物事に対して観点を複数持つように常に心掛けています。

例えば、他人と意見が分かれて喧嘩になった場合も、ぞれぞれの観点が違っていたことが原因であることが多いです。もし自分が相手の観点から物事を観ることができたとしたら、相手の主張していることを理解できて冷静に議論できるのではないでしょうか。それはゲームデザインを行ううえで、そのゲームを遊ぶユーザーにとって何が最も良いかと考える時にも、同じように重要な客観性への道だと考えています。

最後に、観点の固定を防ぎ、その数を増やし、客観性を目指すための方法の一つとして、僕が入社後に経験した「ゲームジャム」を紹介したいと思います。

ゲームジャムは、決められたテーマに沿って短時間(8時間が一般的のようです)で簡単なゲームの制作を行い、それを発表して他の人にプレイしてもらうという取り組みです。形式は目的と参加者によって大きく変わると思いますが、僕が現在参加している「ゲームジャム」は、同僚に暇な時間に簡単なゲームを作ってみないかと声を掛けてもらって、社内で非公式に行っているものです。

基本的に週末二回分を使ってゲームを作るのですが、その時間にそのゲームを作るためのツールなどの勉強も含まれているので、当然ですが、ゲームとして完成しないこともしばしばあります。個人的には、どちらかというとスキルアップとゲームのネタをとりあえず実装してみることが目的なので、完成しなくてもあまり気にしません。それよりも大事なのは、そのアイディアから、ゲームを判断するための新しい観点を手に入れることだと思います。それがどういうことか、実際に参加して作ったゲームを例に説明します。

一回目のテーマは「脱出」、「サバイバル」と二つのキーワードから選べたので、両方を組み合わせて『キューブ』という映画をモチーフにゲーム化しようと決めました。(主人公たちが謎のキューブに閉じ込められて、複雑な数学の問題などを解きながら脱出しようとするお話です)

ゲーム化したいアイディアはたくさん思い浮かんだのですが、時間が限られているので、キューブの部屋とそれに付いている扉と、数学の問題を解く部分を優先して作ることにしました。内部的な処理としては今まで作ったことがなかったものだったので、やりがいはありましたが、途中から数学の問題を連続で解くのはしんどいだけであまり楽しめないことが段々と分かってきました。他に考えていたアイディアも追加すれば楽しくなったかもしれませんが、そもそも中核とした部分がよくなかったと、実際触れる形にしたことで客観的に判断できたわけです。因みに、そのゲームをゲームジャムの同志に触ってもらった時も、「数学の問題を解くの?!」「しんどっ!」と笑われて予想していた通りの結果となりました。そのようなフィードバックは慣れていなければ、間違いなく受け入れにくいところがあるのですが、物事を客観的に見るためにも必要不可欠なことだと考えています。

また、二回目のゲームジャムの時は、キーワードが「光線」と「夏」になったので、「光線」だけを取って、光を原動力とする宇宙船を操作して宇宙航海をするという内容で制作を行いました。光源となる星に近付けば近付くほど飛行速度が上がるけれども、星に衝突してしまうとゲームオーバーになる、というようなゲームでしたが、それをゲームジャムの同志に見せたところ、速度によって宇宙船が纏っている光の色が変わるようにすると、見栄えが良くなるし、速度も把握しやすくなるというフィードバックをもらい、それを実装する方法も教えてもらえました。それもまた今後活用できる知識になったわけです。

もし新しい発想ができたと自分で思っても、それを客観的に評価することが本当に価値のあるアイディアを発見することに繋がります。自分自身の考えに執着しすぎず、今までのやり方に囚われずに、そのアイディアを触れる状態にしたり、他のクリエイティブな人の意見を聞いたりしてそれらのインプットを吸収しながら、最善の形のものをアウトプットするというのが理想的な流れだと考えています。

この記事を読んでいる皆さんも、プラチナゲームズに入社した際には、ぜひ僕たちの「ゲームジャム」に参加してみてください。新しい観点に出会えると思います。





Mariusヘルマナービチュス・マーリュス Hermanavicius Marius
2016年にプラチナゲームズにゲームデザイナーとして入社。これまでは主にレベルやクエストのデザインをしてきました。