皆さん、映画観てますかー!?
採用・広報グループのICHIでございます。

『ワイルド・スピード SKY MISSION』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『デッドプール』『ワンダーウーマン』……!

現実とファンタジーの狭間に技術と発想で橋を渡し、2時間ばかりのリアルな夢をただ見せるためだけに、莫大な予算と人材と年月を投じて作られた酔狂の極み! 娯楽の権化! ゲームといい勝負だな! 実は当社のコンセプトアーティストである沢田さんは、これらの作品にマットペインター/コンセプトアーティストとして関わっていました。

ゲームに求められるコンセプトアートと、映画に求められるコンセプトアート。共通する部分も多々ありましょうが、各々独自に磨かれてきた技術もあることでしょう。異業種から得られた技術が、当社の作品作りへの新たな刺激になることは間違いありません!

というわけで、今回は社内で沢田さんが行ってくれた「背景コンセプトアート講座」のレポートです。ありがたい……! アーティストではなく完全に門外漢の私ではありますが、とても楽しめましたし勉強になりました! 皆さんにとっても何か得られるものがあることを祈っております。では早速。



◆ 背景コンセプトアート/マットペイントの基本となる考え方は……

世界の広さを定義するということだそうです。

現実には無い、架空の世界を描くわけですから、そこには説得力が必要です。
沢田さんはフォトバッシュと呼ばれる(写真を元に加工した素材を組み合わせ、狙った絵を作り出す)技法を駆使していますが、たとえ写真を利用していても、何も考えずに作ると異次元のように歪んだ不自然な空間になってしまいます。

画面の要素をすべてシルエットにした状態。平坦で奥行きがよく分からない

遠くにあるものは遠くにあるように見せ、近くにあるものは近くにあるように見せる。遠くにある大きな物体と、近くにある小さな物体は、たとえまったく同じ形状であっても「そのように」見えなくてはならない。そのために必要なのは「空気遠近法」と「ライティング」である、とのことでした。

それぞれの要素に「空気の厚み」の色を乗せていくことで、同じ山でも山頂と麓の奥行きの違いまで表現できる

  • 空気遠近法は一般的に「遠くの物ほど明るくなる」と思われているが、これは不正確で、実際には「遠くに行くほど空気の色(空の色)」に近くなる」というのが正しい
  • まず一番遠くにある空の色を決めて、そこから手前に向かってバリュー(空気の厚みの色)を減らしていく
  • 画面全体で「一番遠い部分と一番近い部分のバリューの幅」が、その空間の広さ(スケール感)となるため、逆に「どういうスケールに感じさせたいのか」でバリューの幅を決めるべき(狭い部屋の中でも、奥と手前でバリューの幅が大きすぎると巨大な空間に見えてしまう!)



◆ フォトバッシュの有用性は……

写真から必要な部分を抜き出して加工・配置し、ノイズを取り、馴染ませ、レタッチを施し、必要ならディテールも足して絵を仕上げる

  • とにかく早い! 最短でイメージが形になるため、ディレクターへの提案も素早く数多く行えて、望む結果に辿り着きやすい
  • 応用の幅が広い。同じ素材でも加工の仕方を変えたりすることで様々な場所に使えるし、修正もしやすい
  • 一流のマットペインターの中には手描きにこだわる人も居るが、少なくともフォトバッシュの有用性・即効性は知っておくべき



質問!

Q: 空が無い背景の場合はどうやって奥行きの基準を決めるの?
A: 絵の中で一番重要なものが決まっていれば、そこから相対的に奥行きを決められる。たとえば絵の主役が手前にあるなら、その主役が一番良く見える色調・ライティングを決め、そこから相対的に一番遠くの物との距離を測ってバリュー(空気の厚み)を決める

 

Q: 空気の無い宇宙空間はどう描くの?
A: スケール感を正しく伝えることが大事なので、そういった理屈は無視。見た目の説得力があってカッコよければOK(宇宙空間に実際行ったことのある人はほとんどいない!)
※例えばハイライトの入れ方にしても、理屈の上での正しさと見た目のカッコよさが相反することはある。昔は理屈にこだわっていたこともあったが、今では「最終的にカッコイイかどうかが大事」だと考えている

会議室に液晶タブレットを持ち込み、実演しながらの講座だった

……などなど。
主だったトピックをいくつか紹介させていただきましたが、個人的に特に興味深かったのは、単にリアルに見せるための表現手法というだけでなく「作り手の意図まで含めて説得力を持った画面にするためにどうするのが良いか」という点まで踏み込んでいたところでした。

人の目は本物と偽物の違いを高精度で見分けられるように出来ているのではなく、本物「っぽい」かどうかを感じているだけで、そこには先入観や周囲の雰囲気も大きく関わっています。観光地で普通に撮った「本物」の写真だってライティングやポーズなどの関係で不自然に見えたり、コラ画像に見えたりするのもよくあることで、むしろそれを利用したトリックアート的な写真もあったりしますね。

つまり架空のものをリアル「っぽく」見せるための、説得力を出すためのテクニックというのは、人がどこを見てリアルだと判断しているのかという「感覚のスイートスポット」を効率よく抜き出したノウハウと言えるのではないか。であれば、それを操れるようになれば自由自在に人を騙……(人聞きが悪いな!)つまり狙った感情を引き出すことが出来るのではないか、と感じた次第であります。

昔から創作物の目的は「鑑賞した人にどう思わせたいか」に集約されていたわけですから、こうしたノウハウはアーティストならずとも人を騙……もとい人を感動させたい全ての創作者にとって役立つのではないでしょうか。

プラチナゲームズでは、頻繁にこういった社内勉強会や情報共有会が開催されています。定員の都合などにもよりますが、私のように違う部署のメンバーであっても参加させてもらえることが多いため、特に好奇心旺盛な方にとっては、学びも多く楽しめる職場だと思いますよ。

それでは私はまた、他の勉強会にも顔を出してまいります。楽しみ!


sawada沢田匡広 Masahiro Sawada
1992年生まれ、大阪府出身。Vancouver institute of media artsを卒業後、マットペインターとしてMPCに入社。Digital Domain 3.0、Double negativeなどを経た後、フリーランスコンセプトアーティストとして独立。数々のハリウッド映画作品に携わり、現在はプラチナゲームズ所属のコンセプトアーティストとして活躍中。

▼ポートフォリオサイト
https://www.artstation.com/masahiro_sawada
 
▼CGWORLD.jpスペシャルインタビュー
「20歳までまともに絵を描いたことがなかった」25歳にして数々のハリウッド大作に携わるコンセプトアーティストのキャリアとは
https://cgworld.jp/interview/201708-sawada.html

ichiICHI 
2006年入社。
採用・広報グループの一員として、日々ゲームを遊んだりツイッターを見たり人形劇を撮影したりしている。