ミュージックコンポーザーの上田雅美です。今回はインプリメンテーション(BGMの実装担当)として参加させて頂きました。

僭越ながらCEDEC AWARDS サウンド部門において優秀賞を受賞致しました。岡部啓一さん達の素晴らしい楽曲と、ヨコオタロウさんの見事なディレクションがあったからこそだというのは勿論ですが、何より名誉ある賞に選出頂き大変嬉しく思います。

さて、今回は『NieR:Automata』(以降『NieR』)のBGM実装の中で一番拘ったところについて書かせて頂きます。少し前に社内で『NieR』のBGM実装報告会を行いまして、思いの外反響がありました。中でも一番反響の高かったハッキング制御の部分にフォーカスして、BGM実装の裏話を簡単に書きたいと思います。




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何故8bitに?
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ハッキング中は楽曲が8bitバージョンに変化するようになっています。開発初期段階は8bitバージョンを作る想定は無かったと思いますが、私が『ニーア ゲシュタルト & レプリカント 15 Nightmares & Arrange Tracks』の『ニーアの伝説 ~8ビットの勇者たち~』を聴いたこと、また2015年のCEDEC登壇時に発表したTone Filter(なんちゃって8bit化エフェクター)が活用できるのではないかと思ったのがきっかけで、ハッキングシーンの8bit化を提案させて頂きました。

しかしながら全ての楽曲に8bitバージョンが用意されているわけではありません。場合によっては自動生成されたものが再生されます。一体どういう仕組になっているのでしょう?


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Tone Filterの仕組み
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楽曲をモノラル化し、48音程をサイン波で抜き出します。(凄く低い音や高い音、微妙な音程はバッサリカットされます)ディストーションを掛けて矩形波に変換し、48音程の内、聴こえにくいものは音量をガッツリ下げ、最終段で48音程をミックスするといった感じになっています。もっと精度を上げるアイデアもあるのですが、今回は精度よりも連続変化への対応に注力した形になっています。下図はオーディオプログラマーの木幡君に説明をしてもらった時のものです。


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動画で解説
8bitバージョンが用意されている場合
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ハッキング成功時に8bitバージョンにクロスフェードさせます。これだけでも十分かもしれませんが、もっと拘りたいですね。

ハッキング開始時に演算バージョンを上乗せしてみます。ふわっとした印象が加わり、ハッキングを試みている雰囲気もありますね。8bitバージョンへの繋ぎもより良くなりました。



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8bitバージョンが用意されていない場合
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ハッキング開始時から演算バージョンを上乗せする所までは同じですが、ハッキング成功後は、通常バージョンを少し残し、演算バージョンを上乗せしたままになっています。今度はミドルウェア上でその状況を見てみましょう。


演算100%だと説得力に欠けるのが分かると思います。80%+ステレオディレイがやはり良い印象ですね。

とても重たい処理なので今はちょっと厳しいですが、将来的にはもっと精度の高いものが作れるようになると良いなと思っています。

こうして見ると、BGMの処理は伝わり難いものが多いですが、地道なクオリティアップを重ねないとトータルクオリティーはなかなか上がらないものです。他にも色々と拘った部分はあるのですが、今回はこの辺りで!

どうも有難うございました!





ueda上田雅美 Masami Ueda [Facebook
カプコン、クローバースタジオ、SEEDSを経てプラチナゲームズへ。ミュージックコンポーザーとして、『バイオハザード1~3』『デビルメイクライ』『ビューティフルジョー1~2』『大神』『ベヨネッタ』『ベヨネッタ2』など数々の作品のBGM制作を担当。
TRANSFORMERS: Devastation』『TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES: Mutants in Manhattan』ではサウンド全般のディレクション及びインプリメンテーションを手掛けるなど、楽曲制作にとどまらず、サウンド表現の可能性を追求し続けている。最新作は、インプリメンテーションを担当した『NieR:Automata