お久しぶりです。アーティストの肥田です。(前回の記事)
グラフィック関連の役職は「~アーティスト」という名前で統一されていますが、
自分では名前負けしている感じがします。早く負けないくらいになりたいです。
そろそろ、毎年恒例のお花見が迫っております。
これが掲載される頃には、我々新人は準備で駆け回っていることでしょう。
よきかな、よきかな。
ところで私の代はアーティストが二人しかいません。
私と、フレッシュマンブログの初陣を飾った横山の二人です。
そしてその二人ともがエンバイロメント、即ち背景に配属となっています。
しかし、私と彼の経緯は大きく異なっています。
私はゲーム好きな一介の専門学生(男女比7:3)でした。CGWORLDは買う派です。
我ながら普通ですね。
一方、超新星横山の栄光の軌跡を振り返ります。
武蔵野美術大学卒。男女比3:7。羨ましい羨ましい
そしてCGWORLDには載る派。載る派。載る派?
私はこれまでCGWORLDは買う派か借りる派くらいしか認識しておりませんでしたから
載る派の存在には大変驚かされました。載る派ってなんだ。
更に横山君が背景志望なのは先のブログのとおり。
かたや私は面接でこんなやり取りをしていました。
面接官 「アニメーションと背景やったら、どっちやりたい?」
私 「背景よりは、アニメーションの方がやりたいです。」
面接官 「アニメーションと背景のやりたさにはどれくらいの差がある?」
私 「アニメーションの方が圧倒的にやりたいです。」
うろ覚えですがそんな会話をした記憶があります。
ちなみにこれがポートフォリオに入れていた唯一の背景作品です。
※上がイメージアート、下が3Dでの制作物です。
見ての通り、横山君の作品とは雲泥の差。これが買う派と載る派の差。
そんな対極(左右じゃなくて上下)の二人ですから、まさか同じセクションの、
更には同じプロジェクトに配属されるとは思ってもみませんでした。
そうして横山君は念願の背景を楽しそうにやっているわけですが、
では私は。楽しくないのかと言われればそんなことはまったくありません!楽しいです!
■「楽しい」と感じるようになったきっかけ
上記のやりとりからも分かるように、そもそも私はアニメーター志望でした。
理由は【没入感】【生きている感】といったものを作り出したかったからです。
そしてそれをやるには説得力のある、生き生きとしたアニメーションを制作する、
というのが当時の私の方法でした。
しかし背景をやってみて、ゲーム制作に携わってみて気付きました。
【没入感】【生きている感】みたいなものは、
色々なセクションの、色々な人たちの努力の結果で出来ているのだということに。
例えば、剣を振るアニメーションがあったとして、
そのアニメーションだけでは、やっぱり物足りないのだと、今は思います。
そのキャラクターが鎧を着ていて、その周囲に戦場が広がっていて、
初めてそのキャラクターは戦士たりえる訳です。
そこに剣の交わる音が響いて、剣が風を切る特殊効果がついていくと、
どんどん【没入感】【生きている感】が出てくるでしょう。
そうやって積み重ねで出来ている。
そのことに気付いた時、私は背景を楽しいと感じるようになりました。
ただ横山君と魅力に感じている部分が結構異なっているな、
と思ったので私も書いてみます。
■背景の魅力!
それは「自由度が高い」ことです。
基本的にはキャラクターも背景も、コンセプトアートを元に作成されますが
背景のコンセプトアートというのは全てが全てはっきり描かれているわけではないです。
もちろん雰囲気や方向性は、はっきり明示されていますが、
路地に張ってあるチラシの一枚一枚、窓枠の装飾などは「エンバイロメントアーティストの方でそれっぽく作ってOK」みたいなことも多いです。
コンセプトアートを忠実に再現しても、3Dになるとなんか思ってたのと違う、みたいなこともあります。
そういった時にこっちでそれっぽいものを作って、絵をもたせるといったこともあります。
ただ、この「それっぽい」というのが非常に難しいです。
それは
「その場所にあって不自然でないもの」で
「その時にあって不自然ではないもの」で
「その世界にあって不自然ではないもの」で
そして「ゲームの邪魔にならないもの」でなくてはなりません。
そのためにはゲームのシチュエーション、世界観、ゲーム性等をしっかり考えて、
実際の資料をたくさん見て作る必要があります。
そう聞くと難しくきこえるかもしれません。
しかし同時にとても楽しく、やりがいがあります。
「この世界の窓枠にはきっとこんな装飾がされているだろう」
「ここは治安の悪い場所だからチラシは手配書にしよう」
「この先にはあのキャラクターがいるからその名残を入れたい」
などなど、そうやって考え抜いて作ったものを置いたとき、
ぐっと雰囲気が出る、【生きている感】を感じる瞬間が、きっとあります。
その感覚を知ってしまった時、それが背景を好きになる時だと思います。
どうでしょう、楽しそうではないですか?
もし少しでもやってみたい、自分で世界を作ってみたいと思うことがあれば…
オーケー、合格です。背景を作りましょう(笑)。
■初めての共同作業(はぁと)
もちろん自分だけで詳細を考えていくばかりではありません。
むしろコンセプトアーティストをはじめとする色々な人と話し合いながら作っていくほうがいいです!
一人では出ないアイデアが出ますし、客観的な判断がしやすいのでそれっぽくなりやすいです。
私も横山君と一つのステージを共同で作成したことがありました。
その際にも二人で話し合い、
どうやったら良い感じになるのか、
この場所にはこういったものがあるのではないか。
違和感なくプレイヤーを誘導するにはどんなものを置けばいいのか。
などなど、色々と話し合いなんとか完成まで漕ぎ着けました!
きっと一人で作るのとはまた違う、二人で作ったからこそのステージになったのではないかと思います。
お互い好き勝手作りすぎて、容量が足りなくなったことも…今では、いい思い出…です。
そんな風にゲームの背景には色々なアイデアが、工夫が、遊びが、たくさん散りばめられているはずです。
普段見慣れた背景でも少し気にして見ると、色々と新しい発見があるかもしれませんよ。
私ももっと見ていて没入出来るような、生きている背景が作れるように、今後も精進していく所存です。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
追伸
掲載した学生時代の背景、今描くならこんな感じでしょうか。
少しは上達してると思いたいです。
実は学生時代にCGWORLDに載ったのは横山君と、もう一人、フレッシュマンの中にいるそうです。
実に恐ろしきかなプラチナゲームズ…。
https://www.platinumgames.co.jp/jobs/new-recruits/