皆様はじめまして!VFXアーティストの岸杏樹です。『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』では主人公の一人であるセレッサのVFX(視覚効果)を中心にゲーム全体のVFXを担当させていただきました。今回は本作のエフェクト表現のこだわりについてご紹介いたします!
絵本の中のエフェクトとは?
まず、アートディレクターの西井さん(>記事を読む)から良く言われていた言葉が「CG感を出さないで」でした。なぜならこの物語は全て絵本の中のお話であって紙から飛び出すべきではないからです。よってVFXも【絵本の中のエフェクト】として表現するのが今作の制作の大きなテーマとなりました。
CG感を抑えたエフェクト
CG感を出さない…という言葉をもう少しVFX的に解釈すると【発光感を出さない】【ブラーを使わない】【CGっぽい粒子表現をしない】等になると思います。VFXを少しでも触った事がある方は分かるかもしれませんが、この条件下でエフェクトを作るのは実は難易度が高いです。なぜならVFXは上記の3点でカッコよさやインパクトを表現しがちなので、これを封じた状態で一体どうやってエフェクトを作るのか…!?
例えば敵やチェシャの「咆哮エフェクト」は本作ではこのようになっています。
このように発光感・ブラー・粒子表現は控え、細い線を多重に発生させることで迫力はありつつも、CGの薄い咆哮を作る事が出来ました。
ある意味定番化していたVFXの要素を改めて見直し「絵本らしいエフェクト」に昇華させたVFXが本作にはたくさん存在します。
ここで小ネタですが、実は今作ではセレッサの成長(=ベヨネッタに近づいている)に合わせて最後のラスボス戦はあえてベヨネッタらしいCG感たっぷりのVFXになっています…!そのあたりも是非、頭の片隅に置いてプレイしていただけると幸いです!
絵本的表現は漫画的表現ではない?
例えばキャラクターがちょっとコミカルな感じで怒ったとします。こういった場合キャラクターの頭に漫画的な怒りマークを付けたくなりませんか…?
ですが、この物語は「絵本」のお話…「漫画」とは同じ読み物でも種類が異なりますね。よって、この怒りマーク等の漫画的な記号(漫符)は全てNGになります!今作ではアートディレクターと話し合い、以下のようにコミカル表現のセーフラインを導き出していきました。
例としてアマダン・ドーブという敵が怒るシーンがあります。もちろん頭に怒りマークの漫符を付けることはNGなので、代わりに頭からプンプンとポップな煙を出し、体を赤くして怒りを表現しています。
怒るシーン
また、同じくアマダン・ドーブが驚くシーンがありますが、この時も「!?」マークを出すのではなく、手描きのギザギザテクスチャと線で驚きを表現しています。
驚くシーン
もちろんVFXの力だけはなく、アニメーションやサウンドエフェクトの力があってこその感情表現ですが、VFXもこのように絵本の世界に馴染むような工夫を施しています。
手描きのテクスチャで絵本の温かみを出す
本来VFX用のテクスチャは、テクスチャ自体にグローやグラデーションを含んでいる事が多く「CGでキッチリと作られたもの」であることが多いです。
ですが、こういったものを使用すると、既にテクスチャにCG感があるのでVFXとして組んでもCGっぽくなってしまいます。そこで今作ではあえてペンで直に描いた手描きのテクスチャを多く作成し、活用しました。
同じ形状のデザインでもタッチを変えることで絵本に馴染むテクスチャに!
今作の手描きテクスチャのポイントとしては、整った線ではなくどちらかと言うと少しざらざらした質感(紙の質感が得られるもの)であったり、あえて左右非対称にしたりなど、手描きだからこそ出る粗さを大事に扱っています!
例えば、ろうそくのエフェクト一つとってもリアルなろうそくの炎にするのではなく、手描きのろうそくの炎テクスチャを作成し、そこに発光感を抑えた丸いテクスチャをろうそくにペタっと貼る事により温かみのある質感を表現しました。
ろうそくの炎は手書きのテクスチャ
また、セレッサの魔導術である「ウィッチパルス」はアートセクションに描いていただいた手描きのアニメーションテクスチャを使用しています。本来アニメーションテクスチャを手描きで用意するのは、コストが高く効率的ではありませんが、絵本の質感を出すために一枚一枚描いて様々なVFXに活用しています。
ウィッチパルスのエフェクト
エフェクトの魅力
最後に本作を通じてエフェクトそのものの魅力についてご紹介します!
VFXはアクションに対して軌跡等の見た目を付けるのはもちろん、背景(ステージ)に対しても様々な視覚的効果を付けていきます。VFXを付けることによってステージの雰囲気を更に魅力的にすることもできますし、ガラッと大きく見た目を変えることもできるのがエフェクトの面白いところです!
森の景色もVFXを入れることにより、更にやわらかい雰囲気が増幅されています。
ティルナノーグの遠景はVFXで表現しているため、VFXを非表示にすると真っ暗な空間であることが分かります。
ティルナノーグの遠景VFXは実はかなり少ないパーツで構成されています
セレッサとチェシャのアクションもVFXが有ると無いでは迫力が違ってきます!
最後に
今回のVFXに纏わるお話はここまでです。『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』の魅力を、そして少しでもエフェクトの面白さを皆様にお伝えできていれば嬉しいです!
岸 杏樹 Anju Kishi 2019年にVFXアーティストとしてプラチナゲームズ株式会社に入社。『BAYONETTA 3(ベヨネッタ3)』の開発に携わった後、『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』ではキャラクターを中心にゲーム全体のVFXを手掛け、スタッフロールのVFXも担当した。 |