こんにちは。『ASTRAL CHAIN(アストラルチェイン)』でリードミュージックコンポーザーを担当しました五十嵐です。『ASTRAL CHAIN』のBGMの作曲、音楽ディレクション、Wwise実装、BGM全体のシステム構築を担当しています。

今回は『ASTRAL CHAIN』のBGM全体の設計について、曲紹介も交えつつお話しできたらいいなと思っています。

なお、本タイトルのBGMはプラチナゲームズコンポーザーの五十嵐、原田、黒川の3名、そして主にカットシーンBGM制作の担当として外部コンポーザーの青木征洋氏(Vivix社)と瀬恒啓氏、という布陣で制作しています。



■『ASTRAL CHAIN』音楽3要素

『ASTRAL CHAIN』のBGMの音楽性を大まかに分けると3ジャンルの曲が存在します。それは「メタル」「エレクトロ」「オーケストラ」

この図は、横軸は右に行けば行くほどドラマチックなBGMで、それらはオーケストラ楽曲。縦軸は上に行けばいくほど緊迫感が高いシーンのBGMで、それらはメタル楽曲で表現されているよ、といった分布を表しています。

例えば、「敵もいない穏やかなステージ」のBGMは「クール寄り」「平穏」なのでエレクトロ楽曲のBGMになっている、というイメージです。※例外はあります


■『ASTRAL CHAIN』のバトルパート! クール&アグレッシブなメタルサウンド

開発初期に田浦ディレクターとどんなBGMにするか話し合った際、強く要望されたのが、「戦闘曲は非戦闘時とメリハリをつけてロックでかっこよくしたい」というもの。『ASTRAL CHAIN』の音楽はこれを軸に設計しました。

ロックといってもさまざまな表現があるのですが、『ASTRAL CHAIN』の近未来的世界観からイメージするに、荒々しい、泥臭いロックは合わない。「モダン」「クール」をキーワードに、ある種の「無機質さ」を感じるようなシステマチックで硬質なバンドサウンドが近未来的なのではと考えました。

具体的には、

  • ダウンチューニングギターによる、ヘビィで幾何学的なフレーズを多く使うメタルサウンド。(Low Gくらいまで使いました)
  • ドラムの音色もタイトに。人間味あふれる演奏ではなく、ある意味、無機質・機械的にも感じるフレージングと音作り。
  • シンセやデジタルパーカッションも自然に混ぜ込んでいく。

※本記事における「メタルサウンド」はヘビィなディストーションギターやタイトなドラムなどによるヘビィメタル的サウンドのことをざっくり指します。

では早速、戦闘BGMをご紹介……の前に。
『ASTRAL CAHIN』では各ステージごとに非戦闘BGMと戦闘BGMを専用で用意しているので、まず非戦闘BGMを先にご紹介。

♪“Ark Mall“
Composed by Satoshi Igarashi

こちらが非戦闘時の「商業施設アークモール」ステージBGM。
(ジャンル的には後述のエレクトロサウンドに入るものですが、比較のためにもこちらでご紹介)
戦闘BGMをカッコよく聴かせるために非戦闘時のステージBGMはドラムやヘビィなエレキギターといった音色は使わず、テンションを抑えて、戦闘曲とのメリハリをつけています。

♪“Ark Mall(Combat Phase)“
Composed by Satoshi Igarashi

そして、こちらが「商業施設アークモール」ステージの “通常戦闘BGM” です。戦闘BGMは前述の通りギターがメインの「メタルサウンド」で作られています。ロックだけどちょっと無機質的、電子音も自然にミックスされていて近未来的な印象ではないでしょうか?さらに、アークの最大の商業施設ステージということで、「都会的」をキーワードに制作しています。

ゲーム中ではこの非戦闘BGMと戦闘BGMがどのように切り替わっているか、ぜひ耳を傾けてプレイしてみてください。




■近未来な日常世界を感じさせるクールなエレクトロサウンド

激しいメタル系のドラムとエレキギターは戦闘、アクションのアイコンとして使いたかったので、戦闘ではないシーン、比較的平穏なシーンはまったく違うアプローチにしたいと考えていました。

『ASTRAL CHAIN』の世界はホログラムやMR(複合現実)が存在する近未来。アストラル界やキメラもデジタルデータ的な表現がなされています。これらの近未来・デジタル表現といった要素から非戦闘BGMはシンセや電子音を使ったエレクトロ・テクノ楽曲で表現することに。

♪“Task Force Neuron“
Composed by Satoshi Igarashi

ネウロン本部のBGMです。プレイヤーたちの拠点であり、日常的シーンなので「平穏」であり、「ドラマチック」なシーンでもないので、分布図の左下あたりに位置します。「エレクトロ」のエリアに入っていますね。

日常シーンなので、まったりしすぎず、叙情的すぎず、盛り上がりすぎず、かっこよすぎず。ごく自然にそこにあるBGM。でも、ネウロン(拠点)はとても重要な場所であり、たくさん聴くことになる曲でもあるので、自然すぎて耳に残らないBGMにはしたくない。そんな一見矛盾した要素を絶妙なバランスで構成した楽曲で、『ASTRAL CHAIN』の「近未来感」「クールさ」を象徴する一曲です。




■壮大でドラマチック! オーケストラサウンドにも一工夫。

通常バトルシーンはロックにすることにしましたが、ラスボス戦や、切なさが混じるようなイベント戦闘など、よりドラマチックに盛り上がるシーンでは、メタルサウンドやエレクトロサウンドでは少しスケール感が足りないので、壮大なオーケストラサウンドに。

♪“Homunculus α“
Composed by Naofumi Harada

「Boss Battle(大ボス戦闘)」にカテゴライズしている楽曲の一つで、巨大ボスとの戦闘BGMです。先ほどの戦闘曲よりさらなる緊張感とスケール感を表現するためにオーケストラ楽曲で表現しました。

『ASTRAL CHAIN』のオーケストラ楽曲として特徴的なのは、オーケストラ楽曲でありながらシンセサイザーやデジタルパーカッションなど、デジタル系の音色がふんだんに使われて組み込まれている点です。

これにより『ASTRAL CHAIN』の「近未来さ」を表現するとともに、他のジャンルのBGMとの親和性を高めています。




■各ジャンルのクロスオーバー

先ほどまでの曲を聴いていただいてお気づきの方もいるかと思いますが、「エレクトロ楽曲」だけどエレキギターが入っている、「メタル」「オーケストラ」だけどシンセサイザーなどデジタル系の音が入っている、など、どの曲も各ジャンルの要素を互いに持ち合っているのです。このハイブリッドサウンドが全体に統一感を持たせる役割を担っているとともに、「『ASTRAL CHAIN』らしさ」の象徴にもなっています。中でもエレキギター(ディストーションサウンドからクリーントーンまで指します)は『ASTRAL CHAIN』のキーとなる音色として様々な部分で混ぜ込みました。

それでは、そんなハイブリッドサウンドがわかりやすい楽曲をご紹介。

♪“?????????????”
Composed by Satoshi Igarashi

1st トレイラーで使用された楽曲です。ネタバレ防止のため曲名は伏せますが、大事な場面で使われる、“とあるボス戦” BGMです。

メタルサウンドなのですが、メインのメロディ含めオーケストラ(+クワイア)もかなり大きな割合を占めている、メタルとオーケストラのハイブリッド楽曲になっています。メタルサウンドはオーケストラサウンドよりスケールダウンしたように思えますが、メロディや曲展開でドラマチックさを表現して盛り上げています。

ゲーム中でもかなり盛り上がるシーンの一つなので、BGMでも緊迫感・ドラマチック感を最高潮に。先ほどの分布図に照らし合わせればオーケストラで表現されるべきなのですが、そうしなかった理由は2つ。

1つは敵のサイズ感。巨大な敵との対峙シーンではない。
2つ目は、ここでも最高に熱く盛り上げたいけど、この後の展開を考慮して。盛り上がりのグラデーションを作るために。
ぜひ本編で、その目で確かめてください!




それでは改めて図を見てみましょう。

先ほど紹介した楽曲がどこに該当するか、ざっくりとカテゴライズすると、
“Task Force Neuron”はステージBGMなので“Stage”に、
“Ark Mall”も非戦闘BGMなので“Stage”に、
“Ark Mall(Combat Phase)”は“Normal Battle“に該当します。
“Homunculus α”は“Boss Battle“に、
“???????”はドラマチック寄りなので、“Event Battle”にあたりに該当しますが、楽曲的には「Metal」要素が強く出ているので例外といえます。(なぜ例外かは前述の通り)


ほんの一部、簡単にではありますが、曲紹介を交えて『ASTRAL CHAIN』の音楽設計についての解説をさせていただきました。
豪華版『ASTRAL CHAIN COLLECTOR’S EDITION』には、全曲ではないのですが、サウンドトラックが付属します! 豪華アートブックも付くので、『ASTRAL CHAIN』の音楽がカッコいい!気になる!と思ってくれた方は、今後サントラが発売されない可能性もあるので、ぜひゲットしてみてください!

今回は主に楽曲に関して書かせていただきましたが、ゲームをプレイしてこその音楽演出やこだわりもたくさんあります。

  • ステージの進行に合わせてシームレスにどんどん盛り上がっていくBGM
  • ボス戦後半で激しさを増すと共にシームレスにドラマチックに変化していくBGM
  • プレイアブルからカットシーン、カットシーンからプレイアブルへのスムーズなBGM遷移

などなど、ゲームならではのインタラクティブな表現やこだわりもたくさん詰め込んでいます。

ぜひ『ASTRAL CHAIN』を実際にプレイして、楽しんでいただければと思います!それでは。





ishida五十嵐 聡 Satoshi Igarashi
2013年にミュージックコンポーザーとしてプラチナゲームズに入社。
『ベヨネッタ2』『TRANSFORMERS: Devastation』『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutants in Manhattan』『NieR:Automata』の開発に関わる。
『ASTRAL CHAIN』ではリードコンポーザーとして作曲、BGMディレクション、Wwise実装、BGM全体のシステム構築を担当。