皆さんはじめまして!

『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』でリードコンポーザーを務めました中西青葉です。若手スタッフが多いプロジェクトで壁にぶつかることも多々ありましたが、たくさんの方に支えられ、ようやくこの作品をお届けできたこと心から嬉しく思います!

本題に入る前に自己紹介がてら私がリードコンポーザーとなった経緯を少しお話ししたいと思います。

忘れもしない2020年入社1年目の冬頃。BGMの山口さん(※1)に会議室に呼ばれた新人の中西。『ベヨネッタ3』から『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』へプロジェクト異動して欲しい、しかもリードコンポーザーだと告げられました。実は、元々黒川さん(※2)がリードコンポーザーだったのですが、産休に入られるため後任を探していたのです。私の役目は、黒川さんが作られたコンセプトを拡張し、世界を広げることだと山口さんから伝えられました。心境としては携わりたいプロジェクトだったので、舞い上がるように嬉しい気持ちと私で勤まるのだろうかという不安が半分ずつでした。山口さんに「リードの仕事がイマイチ分かっていないのですが、私で勤まるでしょうか・・・?」と尋ねたところ「正直少し早いと思うけど、中西さんはガッツがあるし大丈夫」的なことを言われた記憶があります・・・(笑)

(※1)初代『ベヨネッタ』から3作続けて制作に携わる。現在はプラチナゲームズのミュージックスーパーバイザーとして、音楽の監修・プロデュース・制作マネージメントなどを担っている。
(※2)プラチナゲームズのコンポーザー。本作のテーマソングの作曲を手掛けた。テーマソングのメイキングに関する記事はこちら

安易にその言葉を信じた私は、黒川さんからリモートで引継ぎをしていただくことになります。その時点でテーマソングはもちろん、一部の森やティルナノーグ、戦闘曲などは出来ており、セレッサとチェシャの“絆”度によって音楽が変化するコンセプト(次回詳しくお話しします!)も確立されていました。黒川さんが作られた音楽の世界観はとても魅力的で、途端にこの世界観を磨き上げるプレッシャーと責任を感じたことを覚えています。あれ?もしかして大変な仕事を引き受けてしまったのかもしれないぞ、と後から気が付きました(笑)

そんなこんなで時は流れ、ベテラン勢を筆頭とするサウンドチームの皆さんにめちゃめちゃサポートしていただきながら、作曲はもちろん、音楽ディレクションや外部発注、一部実装など、たくさんのお仕事をさせていただきました! 引継ぎ当時は約60曲想定の小規模プロジェクトだったはずが、次第にゲームに夢が詰め込まれ、細かなものも合わせると185曲。増えすぎです(笑)今作ではこれらの曲制作と実装をコンプリートするために社内コンポーザー6名、外部の作曲家の方2名で挑みました! 大変なことはたくさんありましたが、楽しさの方が勝り、作品に向き合った日々は私にとってかけがえのない幸せな時間でした。拙い私を支えてくださったチームの皆さん、そして、当時は鬼だと思いましたが、リードに任命していただき貴重な経験をさせてくださった山口さんに感謝します。

・・・ということで、前置きが長くなりましたが、BGMの開発ブログではこだわりをたくさん紹介していきますので、読んだ方は是非BGMも意識しながらゲームを楽しんでいただければ嬉しいです!それでは、黒川さん(>記事を読む)から魂を受け継ぎ、私なりの解釈で完成させたオリジンズの楽曲コンセプトをご紹介していきたいと思います!

 


『ベヨネッタ』シリーズの音楽


早速、楽曲コンセプトについてお話ししようと思いますが、今作はセレッサがベヨネッタになる前のお話。スピンオフ作品ということで音楽もシリーズを意識しないわけにはいきません・・・!これまでのベヨネッタシリーズの音楽を振り返ってみると、

  • ジャジーでおしゃれな雰囲気
  • 大編成のオーケストラ
  • 迫力あるシネマティックなサウンド

などがイメージとして思い浮かぶのではないでしょうか?

参考:Bayonetta 3 開発ブログ「BAYONETTA 3の音楽① 楽曲コンセプト」

シリーズとして要素を継承した方が良いのだろうか?しかし、今作は強かな魔女ベヨネッタではなく魔女見習いセレッサと生まれたての悪魔チェシャの成長物語だしな・・・と自問自答。考えた末に、やはりベヨネッタを象徴するセクシーで余裕のある印象を与えるジャズは、幼く未熟なふたりには合わないと感じました。そして、今作最大の特徴である“絵本”からは素朴でこじんまりしたイメージを感じたので、迫力ある大編成のオーケストラやシネマティックなサウンドも相応しくないなと。

ベヨネッタ

セレッサ

チェシャは大事な登場キャラクターですが、何といってもシリーズとしての肝はベヨネッタ。重要なのは強かな大人の女性ベヨネッタではなく、か弱い少女セレッサを表現することだと考えました。そして、絵本タッチにもマッチするようなサウンドを目指す・・・黒川さんから引き継いだ構想と合わせ自分なりに考えた結果、私は新たなベヨネッタシリーズの音楽性を開拓するチャレンジが必要だと確信しました。

 


今作の楽曲コンセプト


今作では少女の純粋で可愛らしい雰囲気を、生楽器を用いた繊細な音楽で。絵本の素朴かつアーティスティックな雰囲気を楽器の素材感で表現しようと考えました。コンセプトを一言で表すならば、

小編成の繊細なアコースティックサウンド

これを目指しました。

これまでのシリーズの音楽と比較してみると、

  • ジャジーでおしゃれな雰囲気
    ⇒芸術的な雰囲気(新)
  • 大編成のオーケストラ
    ⇒ソロ楽器を積極的に使用、出来るだけ小編成(新)
  • 迫力あるシネマティックなサウンド
    ⇒繊細でアコースティックなサウンド(新)

変化としてはこんな感じです。

言葉だけではイメージしにくいと思いますので、ゲーム内の楽曲をご紹介しながら『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』の音楽の特徴を深堀りしていきたいと思います!

 


楽曲紹介&こだわり解説


■モルガナの家で流れている音楽

 

♪音源を聞く

 

動画のダンスモーションを見るとバレエですよね。(後にあんなアクロバティックなダンスをするとは思えない・・・笑)ゲーム中のウィッチパルスという遊びで見られるこのクラシカルな舞踏やメルヘンな世界観に合わせ、音楽もワルツを意識した3拍子のものが多くなっています。ちなみにこのモルガナの家で流れる音楽は、モルガナが歴史ある気高き魔女であることや厳格な性格を表現するために、バロック音楽の雰囲気を意識しています。旋律のヴィオラやチェロは生楽器収録し、楽器の素材感を大事にしました。全てでは無いですが、芸術性のある音楽を目指すためにクラシック音楽から影響を受けている曲が多くなっていますね。そして、もう一つ意識的に取り入れた音楽としてケルト音楽があります。

■新属性の力を開放後にしばらく流れている音楽

♪音源を聞く

 

ゲームの世界観設定やテーマソングとの親和性を高めるためにケルト系の民族音楽の雰囲気を取り入れました。この曲以外にも、魔女の隠れ家での物語の記録やアイテム調合、終盤の戦闘曲などでケルト音楽を意識した曲調になっており、民族楽器を用いたりしているので注目して聴いてみると面白いかもしれません。

■イベントシーンで流れる音楽

小編成の繊細なアコースティックサウンドを象徴していると言っても過言ではないのが、イベントシーンの音楽です。

♪音源を聞く

 

イベントシーンの音楽は一部を除いてほとんどが室内楽曲になっており、それらは生楽器収録されています。

室内楽とは小編成の器楽合奏曲です。器楽とは歌があるものではなく、楽器だけの音楽ですね。今作ではヴァイオリン1、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、ピアノの5重奏を基本の楽器編成としました。とある悲痛なシーンで流れるこちらの曲を聴いてみてください。

♪音源を聞く

 

いかがでしょうか。冒頭のヴァイオリンのメロディーはまるで人の嘆き声のようで心が締め付けられる感覚になりませんか?このダイレクトに心に響く感覚は生演奏ならではの魅力だなと思います。室内楽では個にフォーカスされることで楽器一つひとつの役割が大きくなります。大編成のオーケストラのようなド迫力は出せない代わりに、楽器の雑味や情感ある音が鮮明に聴こえることで“人間味”のようなものを感じ、音楽でよりお話に感情移入させることが出来るのではないかと考えました。また、絵本の読み聞かせの伴奏をする音楽隊みたいなイメージで楽器編成は基本的に固定し、温かで印象的な雰囲気を目指しました。

これらの素晴らしい室内楽曲を書いてくださった外部の作曲家、辻田絢菜さんのお話はまた別の記事でお伝えしたいと思いますのでお楽しみに・・・!

■ピアノの重要な位置づけ

そして、今作の音楽の特徴を語る上で忘れてはならないのがピアノです。

♪音源を聞く

 

ゲームをプレイした方はお気づきかと思いますが、ジングルを筆頭にピアノを用いた楽曲がたくさんありますよね。これは、統一感を出すために作品全体のコンセプト楽器としてコンポーザースタッフの皆に取り入れてもらったからなのです。また、ピアノの使い手がチームにいたからこそ出来た試みでもあります。なぜピアノを選んだのか、詳しいお話はいずれジングルマスターの宮内氏から語ってもらいましょう・・・。

 


『ベヨネッタ』シリーズからの継承


さて、ここまでは『ベヨネッタ』との差別化についてお話ししましたが、もちろんシリーズをリスペクトして継承している部分もあります!

■プロローグの夢の中で流れる音楽

♪音源を聞く

 

ベヨネッタシリーズを遊んだ方にはおなじみのメロディーが引用されているのが分かりますでしょうか? 他にもベヨネッタシリーズの楽曲アレンジやメロディーを引用している曲が潜んでおりますので、是非探してみて下さい♪

そして、ここだけの話をひとつ。冒頭でご説明したように今作ではジャズを封印していますが、とある重要なシーンをきっかけに解禁するのかも?です。是非、注意して音楽へ耳を傾けてみてください!

そして、実は参加スタッフにもシリーズの継承が・・・!

なんと、一作目の『ベヨネッタ』からお世話になっている外部の作曲家、近藤嶺さんに、今作でも一部楽曲を制作していただきました!!ご一緒でき、光栄です。

『ベヨネッタ』からおなじみの作曲家、近藤嶺さん

人気曲である「友よ」を今作らしくアコースティックにアレンジしていただいたのでご紹介しますね!

♪「友よ」オリジナル

 

♪「友よ」ベヨネッタオリジンズver.

 

原曲の「友よ」自体、近藤さんが作曲されているので十数年越しにご自身の曲をアレンジしていただいたことになります。これってムネアツすぎませんか?!まだプレイしていない方は「友よ」がどのようなシーンで流れるのか、お楽しみに・・・!

この曲を聴いて「あれ?小編成って言っていたのに大規模な音楽だな」と感じた方もいらっしゃるかと思います。コンセプトとしては小編成を意識しつつも、重要なシチュエーションやボス戦では迫力を出すために大編成のオーケストラ作品になっているのです。

 

■ジャバウォック戦の音楽

♪音源を聞く

 

バリエーション豊かな音楽になっているので、その辺りのメリハリも楽しんでいただけると幸いです!

 


森と妖精の音楽対比


メリハリと言えば、森の音楽と妖精側の音楽では雰囲気がガラッと変わります。

■森の音楽

♪音源を聞く

 

森と相性の良い、木を素材とした楽器を積極的に使用しています。(ソロの木管楽器、弦楽器、マリンバなど)

 

■ティルナノーグの音楽

 

♪音源を聞く

 

 

妖精のデザインモチーフであるステンドグラスを意識し、美しい雰囲気をベルやアンティークシンバルなどのキラキラとした高域楽器で表現しています。また人間やヒトダマをティルナノーグへ連れ込み弄ぶさまから伺えるイタズラ好きな性格を、トイピアノを主体に玩具のような楽器で表現しました。

このように森の音楽と妖精側の音楽で異なる雰囲気にしているのですが、森での探索から戦闘の音楽への変化にも対比があります。

戦闘になると曲のアレンジが変化します。弦楽器やマリンバなどの森を連想させる楽器は残しつつ、妖精を表す楽器群を追加したアレンジに変化させることで、森が妖精側のフィールドになったことを表現しています。

 


あとがき


長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか?

まだまだ書きたいことはありますが、自重してさすがにこの辺にしておきますね(笑)次回のBGMに関する記事はセレッサとチェシャの成長や絆に纏わる音楽の話をしたいと思いますので、お楽しみに!

コンポーザースタッフ一同の深すぎる愛とこだわりを詰め込んだ音楽を、是非ゲームと共にお楽しみください!そして、ゲームと共に音楽も皆さんの心へ刻まれたなら幸いです。

 


中西 青葉
Aoba Nakanishi

2019年 プラチナゲームズ株式会社に入社。コンポーザーとして『BABYLON’S FALL』ではボス戦BGMを、『Bayonetta 3(ベヨネッタ3)』ではフィールドBGMなどの作曲を担当。本作ではリードコンポーザーとして作曲はもちろん、全体の音楽ディレクションや一部実装などを手掛けている。趣味はサックスで、『World of Demons – 百鬼魔道』には篳篥(ひちりき)の演者として参加するなど多彩な一面を持つ。