『ヴァンキッシュ』ではアートディレクター兼背景リーダーをやらせていただきました、カタカイです。三上ディレクションのゲームに参加するのは某ホラーゲーム以来ですから、結構久しぶりになります。

■背景の仕事

 僕はゲームの背景の仕事を10年以上やっています。結構長いことやってますけど、まだ飽きてませんし楽しい仕事です。素晴らしい仕事だと誇りに思っています。ハードウェアが進化するたびに我々背景に携わる人間の仕事内容は変化してきました。リアリティが求められ、カメラはフリーに動かせるようになり、広大なエリアが当然のようにゲームに登場してくる時代になってきました。明らかにゲームの中の世界はリアル世界のトレースの方向へ向かっています。今後は現実世界で出来ることがゲームで当然のように出来るようになるでしょう。またその逆に現実世界ではできそうにないことが、現実味を帯びて再現できるようになっていくでしょう。背景の仕事はこのあたりに大きく関わっている仕事です。非常に重要で面白い仕事です。現実世界の忠実な再現と非現実世界の構築はどちらも重要で興味のある内容ですけど、個人的には後者のほうが仕事としてやりがいがあるように感じます。今回、『ヴァンキッシュ』ではこの非現実世界の構築を楽しむ機会に恵まれました。

■舞台はスペースコロニー

みなさんはスペースコロニーと聞いて何を連想しますか?
これは世代によっていろいろ違いそうです。僕は30代後半なので「スペースコロニー」と聞くともうガンダムしか思い浮かびません。サイド3、サイド6とかのアレです。僕は特にガンダムに詳しい人間ではないので下手に書くと怒られそうですが、そんな僕でもガンダムのコロニーインパクトの洗礼はうけています。地球と月の引力の関係が安定しているという、ラグランジュポイントに建設された人工的な居住都市。その字面だけでもインパクトがあります。(話は変わりますが、VANQUISHロゴも担当させていただきました。Qの文字はラグランジュポイントをイメージして作ってみました)
偉い学者さんがいろいろなタイプのコロニーを発表していて、コロニーにはいろいろな形状があるんですが、「『ヴァンキッシュ』の舞台をコロニーにしよう」と決まった次の日には、ガンダムの劇中にも登場するシリンダー型コロニーを3Dソフトで作ってプレゼンしてました。(楽しい仕事は結構速いです)チームのメンバーはガンダム世代が多いのであっさりこのタイプで行こうって決まっちゃった気がします。やっぱり見た目が一番エキサイティングなのはシリンダータイプなんじゃないかと。内側から見た空間の広がり方はまさにSF。隣の町や都市が、上空に見えるんですから。ありえない光景です。
 でもさて作ろう!という段階になって思ったのは、シリンダー型のスペースコロニーをちゃんと描いている作品て意外と少ないんですね。内側に住んでいる人間の視点から世界がどう見えるのか?資料となるものはほとんどないので、イメージを膨らませてコロニーらしさを前面に出して設計しました。

■ガチンコ勝負

 コロニーを製作するにあたっていくつかの問題が出てきました。近年のゲーム映像トリックが使えなくなるからです。ネタばらしをしましょう。近年のゲーム映像のクオリティは遠景のイメージと光学エフェクトを駆使したポストプロセス処理で上がっているといっても過言ではありません。人間の目にリアルに見えるようなトリックを仕掛けているわけです。そして遠景部分は高解像度な天空のイメージ写真などを使うか、太陽光・雲・雲から差し込むゴッドレイなどで天空を演出し、詳細に落ちる影や光のブルームなどでリアルなゲーム画面を演出するわけです。しかも空はそれほどオブジェクトを描画する必要がないわけで描画負荷軽減とクオリティアップの一石二鳥なわけです。HD機になってから明るい空が舞台のゲームが多いのは、こういう理由もあるわけです。
 しかし『ヴァンキッシュ』の舞台はコロニー内部です。定石として使われていた手法で空を表現することは出来ない!もちろんコロニー内部とはいえ大気はあるわけで、空があってももちろんいいんですけど、せっかくコロニーを舞台にしたのに雲や厚い大気で覆ってしまっては本末転倒。何か良い手はないか?
 とりあえずコロニー内をすべて3D空間にモデリングしてしまおうと考えました。工夫すれば少ない工数ですべてをモデリングできるはず。直径約10kmのシリンダー内部をすべてモデルで埋め尽くすのです。当然ものすごいポリゴン数とオブジェクト数になります。そしてその描画処理のためにはエンジンの改良が必要でした。

■エンジンは徹底的に改良

『ヴァンキッシュ』のエンジンは『BAYONETTA』エンジンを改良して作ったことになってますけど、最終的には全く異なったものになってしまいました。ライティング、シェーダー、レンダリング、コリジョンシステム、モデル構築方法など今までの作成方法を改め、違うスタイルを模索しました。一つは大量のオブジェクトを扱えるようにするため。コロニーなど背景に使われる大量のオブジェクト群を高速に処理する必要性がありました。
 そしてもう一つはゲーム制作ワークフローの改善が求められたからです。シューティングというジャンルは初めての経験ですけど、レベル(マップ)作成のトライエンドエラーが非常に重要だろうということはあらかじめ想像がついてました。いかにローコストでレベルが作れるか?今までの経験で、最初に作成したレベルが最後までそのまま使われることがないことは確実ですし、伝統的に開発チームには、ゲームプレイが面白くなるためには一からレベルを作り直すこと、クラッシュアンドビルドを厭わないすばらしい?環境があるので、その注文に対応できる環境づくりをすることから始めました。現行ハイエンド機で今までのような背景作成方法を取っていたのでは、ハイクオリティのレベルを量産できないという判断もありました。それによる作成環境の変化によって、今まで起こったことのない技術的問題やアートワーク的問題も引き起こし結構大変でした。同時に複数人のアーティストが同じレベルにアクセスし製作できるような協力体制も採用しました。ゲームプランナーがレベルを直接デザインしていける方法も取り入れました。
 新しいことにチャレンジするのは個人的には大好きですけど、今回はホントに解決できるのかな?という疑問符が頭に残ったまま作業を進めてきた気がします。しかし優秀なスタッフがかなり参加しているチームで助かりました。みんな本当にグッジョブ。

■夢のある仕事と夢のない話

背景プロフェッショナルとしては、『ヴァンキッシュ』の仕事、特にシリンダー型コロニーを造ることは創造的・独創的・挑戦的でかなり楽しい仕事でした。コロニーが舞台の作品はいくつかあると思いますけど、『ヴァンキッシュ』のコロニーが一番コロニーらしさが出てるんじゃないかな、個人的に思います。映像的にもあまり見たことがない世界が造れたんじゃないでしょうか。激しい戦場の近景から巨大建築で構成されるスペースコロニー内部の広がりまで、うまく表現できたのではないかと思っています。
「実際にこんな都市があったらいいなあ」と思うんですけど、現実世界ではスペースコロニーなんて絶対に造られることはないとおもいますよ。コストがかかりすぎますこれ。コロニーなんて作る時間と金があるんだったらテラフォーミングしたほうが早そうです。実際3Dで作ってみてそんなこと実感しました。夢のない話ですけどね。

■ゲームを触ってみてください

シューティングゲームを作るにあたっていろいろなTPS、FPSをプレイして参考にしたり本気で遊んだりしました。特に海外にはたくさんのTPS、FPSがありますから、そんな中に新たな一本を投入するんですから中途半端なものは作れませんでした。みなさんプレイしてみてください。『ヴァンキッシュ』のゲームプレイは他のシューティングゲームとは全く違う感覚を味わうことができます。ここまでスピーディで激しいシューティングゲームはないんじゃないかなと思います。少々難しく感じるかもしれませんがぜひトライしてみてください。本当にお薦めです。