みなさまこんにちは。サウンドデザイナーの中 康洋です。

『ベヨネッタ3』については、繰り返し周回プレイをされている方も多いのではないかと思います。ステージ内も探索して色々な発見をされていることでしょう。サウンドデザインについて紹介する3回目の魔女の解体新書では、「ステージ」のサウンドに焦点を当ててお話しできればと思います。

まず、こちらの動画をご覧ください。


▼過去の記事を読む
【魔女の解体新書】ゲーム内SE ① ベヨネッタとヴィオラの音について
【魔女の解体新書】ゲーム内SE ② 敵のサウンドデザインについて

実は、『ベヨネッタ3』の背景は前作と比べ広くなっています。そして、背景物に対してインタラクトできる物が数多く入っているのも今作の特徴となっており、ステージ内の至る所が壊せるようになっています。(>>エンバイロメントに関する記事はこちら

また、現実世界ということもあって、場所によっては耳慣れた音が聴こえてくるようなシーンもあったりします。今作では、ベヨネッタが世界各地を旅するような、いわゆる世界旅行をテーマにしていて、各国の街並みや空気感を表現する必要があり、音でもその国が感じられる表現を目指しました。

といっても、制作時に世はコロナ禍の真っ只中・・・本来ならステージのモデルとなる各国を取材して、その国々の音を実際に体感し、ステージ制作に役立てたかったのが本音です。

そんな状況下でしたが、今回は自身が一番よく体感しその身に染み付いている「東京ステージ(品川~渋谷)」と意外に見落とされがちな背景に関係する「足音」についてお話ししようと思います。

 


空間をどう表現するか


開発初期に上がってきた渋谷ステージは、おなじみのランドマークが目の前に広がっている、私自身は出張などで何度も訪れたことのある街です。また渋谷の駅前は、よくテレビなどでも流れているので、日本に住んでいる方なら一度は目にしたことがあると思います。

精巧に表現されたステージを見て、「これは気合入れて作らないと嘘くさくなるな」と感じました。また、ベヨネッタシリーズでは珍しく「背景の空間表現を大事にしたい」と宮田ディレクターからもオーダーがあり、それらを意識した作りになっています。

背景設定としては、すでに至る所で崩壊が進み市民はすでに避難しており、街は何もかもが放り出された状態としました。東京全体で緊急避難放送が至る所から聞こえていたり、街頭にあるお店からは有線が流れっぱなしになっていたり、地下鉄の入り口でよく聴く「ピーン・・・ポーン・・・」などまで流してみました。(あれは誘導用音サインというものだそうです)

ビルの上に登ればたくさん並んでいる室外機も音が鳴るようにしてあります。市民たちがまさに急な襲撃によって、ほぼ生活をそのままに避難したような印象を持てるようにサウンドをデザインしました。

 

品川は、ベヨネッタがギンヌンガガプを抜け最初に降り立つ場所です。厄介だったのが、品川駅にある在来線の山手線車内からスタートし、電車内で戦闘が行われるシチュエーションでした。

本来なら、実際の山手線車内音や走行音などを用意して表現するのが一番なのですが、流石に日本一混雑する在来線の音は用意することが困難でした。さて、どうしたものかといろいろ考えて、本物の電車走行音が収録できる場所を発見しました。ただ、山手線ではなく関西圏のJR車両音になります。(鉄道ファンに怒られそうですけど・・・)

 

収録現場は、JR電車の普通や快速・特急に貨物まで収録できるなかなかの穴場で、タイミングさえ良ければ他の音がほとんど入らない良い場所です。これらの素材を加工し、品川駅〜車内戦をリアルに表現することができました。

 

電車内のアナウンスは新たに収録して表現しています。ここでも宮田ディレクターの変な(?)こだわりが出て、放送している音質や聞こえ方はもちろん、日本語アナウンスの後に英語アナウンスが流れるところまで、なかなかにリアルな仕上がりになっていると思います。

また、ギンヌンガガプのワープ近くでは転移先の世界から音が漏れている表現を入れております。東京ステージではちゃんと駅に入っていく電車に対するアナウンスになっています。もしよかったら一度立ち止まって聴いてみてください。

 


地味だけどリアルさが増す足音


もう一つ、背景由来で見落としがちなのがベヨネッタやヴィオラの足音です。背景に合わせて足音が変わっているのですが、あまり注目されない部分です。今回、一番厄介だったのが日本と中国に存在した「瓦屋根」です。時代劇でもない限り歩くことのない場所だと思いますが、ベヨネッタやヴィオラは歩いちゃいます。

なかなか特殊な素材なのですが、幸いなことに私の実家が昔ながらの瓦屋根で、交換用のストック瓦が何十枚もあったので数枚もらうことができました。

ただ、瓦だけ並べても安定しないし、求めていたイメージと違ったので、瓦屋根の内側にある瓦を固定する部分も作りました。

こだわって準備した甲斐もあって、結果、良い音が録れたと思います。

 

プラチナゲームズでは最近こういったフォーリー(※)を活用した音作りも増えています。せっかくなのでこういった音の作り方に興味を持っている若手スタッフにも実際に体験してもらいました。

(※)映画やゲームなどのメディア作品において、主に映像に合わせた生の動作音を効果音として使用する手法。

 

ただ鳴らすだけではなく、どうすれば自分の想像している通りの音を出せるのか。四苦八苦していましたが、これも大切な経験です。(そのとき収録した音ですが、後でほぼ私が直したのは本人にはナイショです)

 

いかがでしたか?

ベヨネッタシリーズでもかなり背景の音にも力を入れた今作の世界は、BGMがなくても空気感を感じられるように、可能な限りリアルに再現することを目指して制作しました。

現実では楽しめない、崩壊してゆく世界、ゆっくり堪能してください。

 

 


中 康洋
Yasuhiro Naka

1993年に大手ゲームメーカーでキャリアをスタート。
様々なゲームサウンド制作を経験後、2009年にサウンドデザイナーとしてプラチナゲームズに入社。
『VANQUISH』『The Wonderful 101』『BAYONETTA 2』『STAR FOX ZERO/GUARD』『NieR:Automata』『World of Demons:百鬼魔道』で様々なサウンドデザインおよびシステム構築などを担当。今作ではBGMを除く全てのサウンドディレクションを始め、プレイヤー・敵・背景のサウンドデザインとシステム構築・アウトソースを担当。