みなさまこんにちは。サウンドデザイナーの中康洋です。新たな敵であるホムンクルスとの戦闘を楽しんでいただけてますでしょうか?サウンドデザイン2回目(※)は、敵のサウンドデザインについてお話していければと思います。

(※)「ゲーム内SE ① ベヨネッタとヴィオラの音について」の記事はこちら


デザインコンセプト


テーマとして、天使を象徴する『太陽』、悪魔を象徴する『月』これらを覆い隠すものとしてホムンクルスでは『雲』がモチーフになっています。また、念仏を唱えるような抑揚のないボイスやホムンクルス文字『梵字』が、神社仏閣を連想させる要素になっています。

ホムンクルス自体のデザインとして、体の至る所に消失表現の雲があしらわれていることもあり、すべてを無に返すようなイメージなのだと感じました。

これらのモチーフから、私自身の勝手なイメージで思い浮かんだのが「仏教」などに代表される「アジアンテイスト的な雰囲気」でした。まぁ・・・念仏や梵字に引っ張られている感はありますが・・・

イメージのすり合わせを宮田ディレクターと進めている時にも同じように神社仏閣的なイメージとの事だったので方向性は大筋では共通の認識だったと思います。

ホムンクルスは体の至る所に消失表現の雲があしらわれている

大筋でイメージは共有できたのですが、サウンドデザインに落とし込む時にどうするべきか・・・一つは分かりやすく仏閣をイメージできる音をモチーフに採用することです。

実際の例を挙げますと、敵の登場音があります。おそらくゲーム中で最もよく聴く音の一つだと思います。

ちなみに今回の敵は天使や悪魔のようにポータルで出現する見た目と異なり、さまざまなストラトゥスの素のようなものがたくさん集まって構成され、最後に怪しく輝いて完成系になるのですがこれらの表現として出現中はグチュグチュとした粘着物質で構成し怪しく輝くタイミングで梵鐘がなるといったサウンドデザインにしました。

ホムンクルス全体を通して顔のデザインが仏っぽくしているというのも相まって中々良い出来ではと思ってます。ちなみにストラトゥスの形をした個々の物体を個人的に総じて「素体君」と呼んでいます。(正式名称ではありません)

出現中のグチュグチュとした粘着音も拘りました。様々な素材を試して今回一番よかったのがコレです。

 

これはカプセルトイの景品です。握るとなんとも言えない触感が楽しい物なのですが、音がまた良いのです。思わず5~6個ほど入手してしまいました。(録音するために何度も握りすぎて破裂してしまい、残っているのは少しだけですが・・・)

良い音って身近にあるもんですね。身近な素材で他にもおもしろ素材として、外骨格のこすれる音にアワビの貝殻なんてのも使いました。

さて、それでは個々の敵について、いくつか紹介しようと思います。

 


各種ホムンクルスのサウンド


ストラトゥス

人型の汎用量産型ホムンクルスで、天使で言う所の「アフィニティ」に相当します。最もよく出てかつ数も出るのであまり煩くなくそれでいて特徴があるサウンドデザインを目指しました。

体が水っぽく、またスライム状に変化することもあって少し水分量が多めな音にしています。また、足音や音声には singing bowl と言う楽器の音をうっすら鳴らし、ちょっと不思議な感じにしています。逆に、武器などの音は生物っぽくなくどちらかと言えば創造物から生成されている無機質で電子的なサウンドデザインになっています。

 

フロッカス/フラクタス

作中に登場する汎用中型ホムンクルスです。天使では「ビラブド」に相当するキャラクターです。こちらも人型ですが、大柄でお腹がちょっとダイエットした方が良いのでは?と思わせる見た目が特徴です。(他人事ではない・・・)

フロッカス

 

フラクタス

 

この子は、腕に剣を持っているタイプとハンマーを持っているタイプの2種類が存在します。

剣タイプは、割と分かりやすく大剣を振り回すような攻撃が特徴ですので、素早く振り回す行動を重視してシャープなサウンドデザインにしています。

ハンマータイプは大きなハンマーに花のような球体が付いた、少し変わった見た目の武器を持っています。確認した所、けん玉がモチーフになっているとの事だったので、音もけん玉要素が感じられるサウンドデザインになっています。

他にも、バリア攻撃時のバリア待機にはSFによくあるような音に加えて不思議さを出すために、アジア系の楽器ではありませんがディジュリドゥの音を混ぜて儀式感を出してみました。

足音などは、少しぽっちゃり感が感じるような足音にしたり、お腹を攻撃するとちょっと誇張し過ぎなくらい激しく揺れるので少しコミカルに感じる音にしています。

音声では、攻撃時の音声は少し呪文っぽくあまり抑揚をつけないデザインにしたり、バリア攻撃などではそれこそ念仏を唱えるような感じに仕上がっています。

 

メディオクリス

鈍重な魔獣では攻撃を加えることが難しい少しテクニカルなホムンクルスです。

常に動き続け落ち着きのない敵でモチーフとなっているのがウサギと聞いたときは「どこが?」ってなったのを覚えています。

私の勝手なウサギのイメージですが、跳ね回るよりは草をモグモグ食べたり、キョロキョロして鼻をヒクヒクさせたりと、見ているだけで癒される要素満載な愛されキャラのイメージだったので、どこがウサギなのかを宮田ディレクターに確認した所、ツノのような部分が耳だそうで、見た目もウサギでしょ?って言われました。

うん・・・確かに・・・?開発初期の頃、呼び名がスピード型と言われていたのも相まって尚更「?」が倍増したのを覚えています。

さて、肝心のサウンドデザインですが、この子は全体的にシャープな印象になるように意識して制作されています。

また、脚に変形機構を備えた大太刀を持っているので攻撃は刀的な鋭利さを出し、移動は素早さを表現しています。

音声に関しては、動きが動物的だったので念仏的なニュアンスよりも動物や虫っぽくしています。

 

ビルガ

人型とは異なり、ムカデのような多足動物キャラです。

この子は多足を生かして踏みつけるように歩き回ったりたくさんの足で同時に地面を踏みつけたりと、足を使う攻撃が多いのですが、最も特徴的なのは噛みつき攻撃ではないでしょうか。

モチーフが日本や中国にある獅子舞との事だったので、獅子舞の噛みつきと同じようなイメージにして特徴を出しています。

 

いくつかの敵をかいつまんで紹介致しましたが、いかがでしょうか?天使とも悪魔ともつかない、中性的なデザインをしっかりと表現できたのではと思っています。

 


おわりに


ちなみに、プラチナゲームズではよく敵の事を「この子」や「あの子」と呼称する事がままあり、親しみを持ってキャラクターのデザインをしたりゲーム内に実装したりしています。

愛情もって作り上げた敵ですのでどの子もおすすめです。皆さんにもお気に入りの敵が見つかると良いなと思ってます。

 


中 康洋
Yasuhiro Naka

1993年に大手ゲームメーカーでキャリアをスタート。
様々なゲームサウンド制作を経験後、2009年にサウンドデザイナーとしてプラチナゲームズに入社。
『VANQUISH』『The Wonderful 101』『BAYONETTA 2』『STAR FOX ZERO/GUARD』『NieR:Automata』『World of Demons:百鬼魔道』で様々なサウンドデザインおよびシステム構築などを担当。今作ではBGMを除く全てのサウンドディレクションを始め、プレイヤー・敵・背景のサウンドデザインとシステム構築・アウトソースを担当。