再びバトンを戻された原田です。

>>前回の記事「BAYONETTA3の音楽② We Are As One」を読む

ベヨネッタといえば派手で華麗なバトルですが、そのバトルシーンを彩る戦闘曲として、シリーズ通して女性ボーカルによる楽曲になっています。今作のいくつかあるボーカルバトル曲の中の一つであり、テーマ曲でもあるAl Fineという曲を解説していきましょう。まずはAl Fineとはどの曲のことか、こちらの動画をご覧ください。

 


Al Fine


  • ボーカル、作詞:Chess Galeaさん
  • 作曲 : 黒川 仁美(PlatinumGames)
  • 編曲 : 黒川 仁美、原田 尚文(PlatinumGames)

この楽曲ができるまで


この曲は、ベヨネッタで通常の戦闘(所謂、結界戦闘)が行われる時に流れる音楽で、ベヨネッタシリーズでは“テーマ曲”として扱われているものになります。

すなわち、その時のベヨネッタの世界観がフルに投影された重要な楽曲になるわけですが、今回は、“We Are As One”という壮大なテーマ曲が既に作られた状態にあって、当戦闘曲では、このメロディーをモチーフとして踏襲しテーマ曲の別のバージョンのような形で作られることとなりました。

実はこの曲、作曲を担当したのは、この記事を書いている私ではなく、弊社のゲーム開発を、子育てをしつつ何度もくぐり抜けてきた黒川女史が、開発序盤から編曲を含めて既に仕上げる勢いで作っていました。

ベヨネッタシリーズの生みの親である神谷さん、今作ディレクターである宮田さんのお二人からのディレクションを幾度も受け、1コーラス分の方向性がしっかり見えてきた段階で、何も知らないままプロジェクトに遅れて入ってきた私に、「はい!あとは最後まで仕上げといて」といきなりバトンを渡されたという経緯がありました。

最初に“We Are As One”のメロディーをモチーフに、と書きましたが、冒頭からサビまでのメロディーがほぼすべて踏襲されているという割と珍しい形態をとっていながら、よく聞いてみないと気が付かないかもしれません。

 


比較検証


ということで、“We Are As One”と“Al Fine”を比べてみましょう。曲の一節を切り抜いて比べた動画を用意しましたのでご覧ください。

 

冒頭は歌い出しの部分、そして後半(0:24~)はサビに当たる部分ですが、比べてみると二つの曲の共通するところと違っているところがなんとなくお分かりいただけたかと思います。前者は大らかなイメージですが、後者は音が増えているだけでなく疾走感がありますね。

歌詞はもちろん、譜割(音符のタイミングや長さ)、後ろのコード(和音)など随所に巧みな変更が施されていますので、一聴ではわからない場合がありますが、聞き比べていただくと「ああ!」と気づきが得られる作りになっているかと思います。

そう、“Al Fine”は“We Are As One”とは別の世界線の同曲であり、まさにベヨネッタ3のマルチバースな世界観を表しているかの様です。とこれは若干あと付けで考えましたが…少なくとも前回の山口が書いた“姉妹曲”という表現は嘘ではないのです。

私も彼女から最初このデモを渡された時に、実はあまりこのことに気づかずに、今までのベヨネッタとは全然違った雰囲気に感じ、まるでアルゼンチンタンゴの様な情熱的なアレンジだなぁ!!と驚いた記憶があります…と同時に、どう仕上げる気なのか…と頭を抱えた記憶も蘇ります。

 


楽器とその収録


渡された楽曲のデモは、どんな楽器を使ってどんなフレーズをそれぞれ奏でているか、など割としっかりと出来上がっていて、そこから、例えばドラムやベースのパートからさらにバトル感が出るような表現になるよう手を加えてみたり、ヴァイオリンやアコーディオンなどのソロ楽器を際立たせたりしたりしました。

既に大体のところは出来ていて、ゼロから生み出す作業がなかったところは個人的にありがたかったですね(笑)

ただ、この作業をしていた時にはDAWという楽曲制作ソフトを使って、所謂打ち込みだけで完結していた時で、まだこの後に生楽器を録音するという事は全く想定していませんでした。

そうなんです!前作の同様のバトル曲と大きく違う点は、一部を除きほぼすべてが生の楽器に置き換えられたというところにあって、今作のBGMの大きな進化の一つと言えるわけですが、このレコーディングまでの準備作業が私にとって一番の大きな仕事だったかもしれません。

今回は、ドラム、ベース、ピアノなど曲の骨格となるところを海外の凄腕のミュージシャンの方々の強力な演奏をリモートレコーディングしてもらい、ストリングス、アコースティックギター、アコーディオン、ヴァイオリン(ソロ)などは東京のスタジオにてレコーディングに立会って、国内のこれまた凄腕の方々の素晴らしい演奏を目の当たりにし、それを録音することができました。

モックアップとして作っていたトラックが本物へと次々と差し替わっていくたび、とても興奮しました!

 


歌詞


オケ(※)が出来上がって、いざボーカルレコーディング!と行きたいところですが、前述のとおり元の“We Are As One”とは譜割が違っていたり、そもそもバトル曲を想定した詞ではないため、あらためて作詞をお願いしました。

(※)ボーカル以外の演奏のこと。

やはり、歌い手が詩の中の世界とシンクロし、気持ちを乗せて唄う歌声が聞き手に一番伝わりますし、そのため詩も歌い手自ら紡ぎだした言葉がとても説得力を持ちます。そういう事もあって、今回はボーカルを務めてくださったChess Galeaさんに作詞をお願いし、世界観のすりあわせや、こちらから幾度かのディレクションを経て、最終的にとても素晴らしいものになりました!

情熱的でいて、ベヨネッタの女性らしい一面が感じられつつも、“We Are As One”とは違った力強さも存在する、そんな歌詞を書いて頂いたと思っています!

Al Fineボーカル、作詞のChess Galeaさん

 


ボーカルレコーディングとミックスダウン


全ての素材がそろったところでボーカルレコーディングです!

こちらはロンドンにあるスタジオにて行われましたが、ボーカルディレクションはロサンゼルス、そしてそれらを日本にて監修するという、3カ国同時オンラインレコーディングセッションというなかなか貴重な経験をさせてもらいました。

Chess Galeaさんとは画面上ではありますが、初めてお会いし挨拶もしましたが、とてもノリノリで、このプロジェクトに情熱を注いでくれている!!とその瞬間に確信しました。彼女自身も、日本人にはあまり見ない様な、とても情熱的な発露が多い印象で、それが歌声からもビシビシ伝わってきます。「歌詞に気持ちを乗せる」というのがとてもよくわかる、そんなレコーディングでした。

そして、このレコーディングのエンジニアをしてくれたのもJess Camilleriさんという若く才能あふれる女性で、Chessさんと年齢が近いのもあってか二人の息がぴったりでした。常にコミュニケーションを取って、ボーカルブースとコントロールルームを行き来しながら和気あいあいに作業をしているのが、仲の良い親友を見ているようでほほえましかったです。こちらの要望を聞きつつ、二人三脚でどんどん歌が作られていく・・・。そんな感じでした。

そして、それらの録音データを再度日本に戻して、最後は今回楽曲制作なども手掛けていただいた青木征洋さんにミックスをお願いし、ベヨネッタ史上最も個性が光るバトル曲!として磨きをかけていただく事となりました。

 


最後に


今作の戦闘曲は、過去のどれよりもスペシャルなものとなったと思っています。

そのうちの一つであるバトルテーマ曲のともいえるこの楽曲は、様々な人の力が集結して奇跡的にひとつにまとまる事が出来たという事がまさにスペシャルといえます!

次回は、そんなスペシャルなもうひとつのバトル曲を取り上げたいと思いますので、それを担当したコンポーザーの亀山にバトンタッチ!!

 


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『BAYONETTA』シリーズ最大規模となる、CD8枚組、全250曲以上収録の超大作サウンドトラック。

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原田尚文
Naofumi Harada

TVCM等の放送用楽曲や企業用VPの制作を経て2012年プラチナゲームズに。
『BAYONETTA 2』『The Legend of Korra』『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutants in Manhattan』『Star Fox Zero』『Star Fox Guard』『Astral Chain』『World of Demons – 百鬼魔道』などでコンポーザーとして、『NieR:Automata』ではインプリメンテーター、『TRANSFORMERS: Devastation』『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』ではギタリストとして参加。『BAYONETTA 3』ではリードコンポーザーを担当。