『World of Demons – 百鬼魔道(以下、World of Demons)』の物語と台本を担当したマット・アルトと依田寛子です。冒険の道中で鬼丸が対峙するモンスター、“妖怪”。皆さんは「妖怪が実在する」と言われたら驚かれるかもしれません。しかし、何世紀にもわたり、日本の空想世界で語り継がれているという意味で、妖怪は実在しています。古代の歴史書から説話集、絵巻、歌舞伎の舞台、木版画など、いたるところで妖怪は登場します。日本料理の一部にも名残りがあり、たとえばかっぱ巻きという名前は、きゅうり好きの河童という妖怪に由来しています。

妖怪が海外で日の目を見るのを、私達はずっと心待ちにしていました。妖怪が大好きなのが理由の1つですが(好きが高じて、妖怪に関する多くの書籍を執筆・翻訳してきました。)、今日のエンターテイメント・ビジネスでは当たり前となっているキャラクター文化の先駆けとして、妖怪が重要な役割を果たしてきたことも大きな理由です。この度、プラチナゲームズの開発チームと共に『World of Demons』に携われたことは、大変嬉しく光栄でした。また、多種多様な妖怪がゲームで中心的な役割を担うことに大きな喜びを感じました。

妖怪の形や大きさはさまざまです。人間や動物の姿をしたものもあれば、何らかの理由で命が吹き込まれた器物や、植物、鉱物もあります。多岐に渡る姿形をした妖怪たちは、太古の昔からある自然崇拝、森羅万象に魂が宿るというアニミズムの信仰に基づいています。その魂は擬人化されており、私たち人間と同じように喜怒哀楽もあります。

美人大首絵で有名な喜多川歌麿や名所風景画で知られる歌川豊春の師でもあった、江戸時代中期の浮世絵師、鳥山石燕(とりやま せきえん)が、1776年、『画図百鬼夜行』と名付けた妖怪画集を世に出しました。それまでの妖怪絵は、そのタイトルの通り集団で跳梁する姿を描写したものがメインでしたが、石燕は1ページに一体の妖怪を描くという形態をとり、またそれぞれに背景も与えました。さらに説明書きも加え、今でいう妖怪図鑑のような形で画集を刊行したのです。石燕の作品は予想を超えるベストセラーとなり、その後『今昔画図続百鬼』『今昔百鬼拾遺』『百器徒然袋』と続編を出しました。今日ではこの4つを総称して「画図百鬼夜行シリーズ」とも呼ばれており、石燕が描いた妖怪たちは、今でも多くの画家やイラストレーターに多大な影響を与えています。

Japandemonium Illustrated: The Yokai Encyclopedias of Toriyama Sekien
鳥山 石燕 (著), Hiroko Yoda (編集), Matt Alt (翻訳)

 
石燕が画図百鬼夜行を刊行した年から240年後にあたる2016年、奇しくも同じ干支である丙申(ひのえさる)の年に、私達はこの石燕の画図百鬼夜行シリーズに英訳と各妖怪の説明を加えた英語書籍『Japandemonium Illustrated: The Yokai Encyclopedias of Toriyama Sekien』を出版しました。プラチナゲームズのアートチームが『World of Demons』の妖怪をデザインする際も、石燕の作品から着想を得ています。歴史的資料に基づいた、沢山の妖怪が画面上に描写されるのはこのゲームが初めてです。とりわけ、妖怪を3Dでレンダリングするのは、一筋縄ではいきませんでした。当然のことながら、石燕が遺したものは紙に印刷された姿であったので、多くの妖怪の後姿は謎に包まれていました。デザインチームが想像や推測をし、240年以上前の絵をとても自然な形で発展させることが出来たのは、彼等のスキルの高さを証明しています。

鳥山石燕が描いた妖怪画(スミソニアン博物館所蔵)と、
『World of Demons』で躍動する妖怪たち

網剪(あみきり)/ Ami-kiri (NET-CUTTER)



鎌鼬(かまいたち)/ Kama-itachi (SICKLE-WEASEL)



輪入道(わにゅうどう)/ Wanyudo (WHEEL MONK)


彼等の努力により『World of Demons』は非常に独創的なものに仕上がり、全く新しい形で伝説の妖怪と関わり合えるようになりました。皆さんがこのゲームをプレーしている時は、単に家庭用ゲームをプレーしているのではありません。
古くから人々が親しみ語り継いできた妖怪たちの軌跡をたどっているのです。今後のブログでは、ゲーム内で遭遇する特定の妖怪をいくつか掘り下げてご紹介しようと思っているので、引き続き楽しみにしていてください。
鬼を従え、鬼を斬る!



※『World of Demons – 百鬼魔道』は、2024年1月18日をもってApple Arcadeでの配信を終了させていただきました。ご愛顧いただいた皆様に心より御礼申し上げます。


Yoda Hiroko依田寛子 (よだひろこ)
株式会社アルトジャパン代表取締役。『ドラゴンクエストVIII』『仁王』等のゲームソフトや漫画『ドラえもん』などの翻訳に携わる。『Yokai Attack!: The Japanese Monster Survival Guide(外国人のための妖怪サバイバルガイド』を筆頭に、妖怪・忍者・幽霊を英語で紹介した三部作(Attack! シリーズ)の著者。



Matt Altマット・アルト (Matt Alt)
株式会社アルトジャパン取締役副社長。翻訳の他、ライターとして『The New York Times』や『The Japan Times』、『The New Yorker』『The Economist 1843』など米国新聞・雑誌にて記事を執筆。『PURE INVENTION : How Japan Made the Modern World』(和訳名は『新ジャポニズム産業史1945-2020』、2021年夏に発売)の著者。


今回の記事を執筆していただいた依田さん、マットさんも特別出演!
プラチナゲームズの納涼“特盛”生放送2021年8月28日(土)AM12:00から配信予定! 『World of Demons – 百鬼魔道』の開発秘話のほか、『The Wonderful 101: Remastered』や『ソルクレスタ』の最新情報もお届けします。ぜひご覧ください!