どうも、コンポーザーの山口裕史です。初代『Bayonetta』から3作続けて制作に携わっています。

初代の制作時はまさかここまでシリーズが続くとは夢にも思いませんでした。2009年発売なので、そこから数えるとベヨと共に約13年、開発期間も含めると15年くらい歩んできました。感慨深いものがあります。(そりゃうちの息子も大きくなるわけですね。)

初代が完成した時も2が完成した時も、もうこれ以上はない、出し切った!と感じていましたが…シリーズものの宿命というか、限界は突破するためにあるというか、今作では今一度過去作を振り返り、さらなる音楽性の拡張とメジャーバージョンアップを目指しました。前回の記事(【魔女の解体新書】BAYONETTA 3の音楽① 楽曲コンセプト)で原田も書いている通り、間違いなくプラチナ史上最大規模の音楽プロダクションになったのではないかと思います。

今作で私は、テーマソング“We Are As One”の作曲とミュージックスーパーバイザーという役割を務めました。ミュージックスーパーバイザーはプラチナゲームズの新しい仕事の形で、音楽の監修・プロデュース・制作マネージメントなどを専門的に行います。従来はリードコンポーザーがその役割を担っていましたが、機能を分散することでスーパーバイズすることだけに集中出来るようになり、これまでの限界を超えた音楽プロダクションが可能となりました。(もちろんお金と時間は有限です。)ミュージックスーパーバイザーのお仕事について書きたいことはまだまだあるのですがこのくらいにしておいて、本題の“We Are As One”についてお話しさせて頂こうと思います。

まずは、昨日公開された『ベヨネッタ3』のテーマソング “We Are As One” のMVをご覧ください。ネタバレを含むので、まだ『ベヨネッタ3』をプレイされてない方はご注意を!

 


We Are As One


  • ボーカル、作詞:Rachael Hawntさん
  • 作曲:山口 裕史(PlatinumGames)

作曲時のエピソード


実はこの曲がゲーム中で一番初めに完成した曲なんです。制作時はまだゲームは一切出来ておらず、初期のGDD(ゲームデザインドキュメント)と簡単なシナリオプロットくらいしかありませんでした。

忘れもしない2018年のお正月、プラチナゲームズでは一年の仕事始めの日に執務室内にて皆で軽くお酒を飲んで楽しむのが通例なのですが、そのほろ酔いでいい気分になっている時に稲葉さんに呼ばれ、“ベヨネッタの次回作でバラードのテーマソングを作って欲しい”という、一発で酔いが覚める依頼を頂いたのを鮮明に覚えています。

神谷さんも同席されており、お二人からシナリオやプロモーションの構想があることを聞かされました。当時のシナリオはプロットのプロットの、さらにプロットくらいのものしかなかったと記憶していますが、神谷さんの頭の中には既に壮大な構想(妄想?)があって、“破滅”というキーワードでストーリーを展開していくというお話を伺いました。

キーワードは“破滅”… と最初に伺ったのですが、色々とお話を聞いていくうちに破滅の先には“未来”、“希望”、“過去の呪縛からの解放”… というような限りなく前向きで光り輝くような正のイメージがあるように感じました。具体的にそういった話があったわけではなかったのですが、神谷さんの中の秘めた想いを受け取った気がして、そのイメージをテーマソングの中で表現しようと思いました。

曲調はベヨネッタらしくジャジーでおしゃれな響きを大切にしつつ、詩のメッセージが伝わりやすくなるようシンプル且つ普遍的なイメージに仕上げたいと考えました。3曲ラフを作って神谷さんに聴いて頂き、最初のラフが一番イメージに近いと言って頂きました。神谷さんの話から感じたイメージそのままに作ることが出来たのが最初のバージョンだったので、やはりそうかと確信出来ました。そうして曲を膨らませていきました。

 


Abbey Road Studio


楽曲を完成させるまでには様々なプロフェッショナルの方々にご協力頂きました。

ハリウッドでご活躍され、近年は日本の大河ドラマの音楽なども手掛けられているJohn R. Grahamさんにオーケストレーションとレコーディング時のコンダクターを、レコーディング/ミキシングエンジニアを著名なアワードの受賞歴もあるDaniel Krescoさんにお願いし、ロンドンのAbbey Road Studioで収録しました。Abbey Roadでの収録を提案し実現まで導いてくれたのは音楽プロデューサーとしてご活躍されている備耕庸さんです。ベヨネッタの生まれたヨーロッパの地で最高のレコーディングを…と考えた時、これ以上理想的なプランはありませんでした。準備には一年以上を費やし、備さんとは数えきれないほどのやり取りをさせて頂きました。全てが初めての連続で、これまでのクリエイター人生で最もエキサイティングな時間でした。

大人の都合でたくさんとった写真もほとんど公開出来ないようなのですが、可能な範囲で思い出の写真を3枚ほど…

※早朝社長に呼び出され、とある横断歩道を一緒に何度も往復する副社長及び、社員二名

※曲の途中にあるハンドクラップのパートを収録するプラチナゲームズメンバー

※後輩のKJがしっかりと当社の痕跡を残してきました

ボーカルと作詞はイギリス在住の実力派シンガー、Rachael Hawntさんです。

ソウルフルで力強く、そして大きな愛ですべてを包み込んでくれるような歌声が、今回の曲のイメージにピッタリだと感じました。RachaelさんもAbbey Roadでの収録をとても楽しみにして下さっていて、心をこめて歌って頂く姿がすごく印象的でした。

イギリス在住の実力派シンガー、Rachael Hawntさん

全てのレコーディングが完了したときは胸がいっぱいでした。素晴らしいミュージシャンと環境に恵まれ、自分にとって『Bayonetta』シリーズの音楽制作における集大成となりました。

 


歌詞について


Rachaelさんに歌詞を書いて頂くにあたり、シリーズ通してのストーリーやテーマをお伝えし、そのうえで、“一番は初代『Bayonetta』、二番は『Bayonetta 2』、そして今作の『Bayonetta 3』と、三部作の流れを汲む形にしたい” というのが神谷さんからのオファーでした。

これを踏まえて完成した歌詞を聞くと…

三部作を通してプレイして頂いた方にはところどころで歴代のエピソードを感じ取れるような内容になっていると思います。そしてシリーズを通して描かれてきた“愛”=“Real Love”というワードが最後を締めくくり、そっと物語の終わりを感じさせてくれる素敵な詩になっていますね。

また、普段は表に出さないベヨネッタの心の内も良く描かれていると感じます。MV内最後のシーンで眼鏡をはずした彼女の横顔は、心から安堵しているように見えますね。この時のダンスも美しく印象的で、まるでベヨネッタの命の輝きのようでした。中の人は世界的にご活躍されているダンサーの菅原小春さんです。全身で表現するベヨネッタのダンスを初めて見た時、魂が震えるとはこういうことかと感動しました。

いつになるかはわかりませんが、また再びベヨネッタに会えることを楽しみにしています。“As long as there’s music, I’ll keep on dancing” その時はまた、音楽を届けてあげたいと思います。次回はAl Fine、制作者の原田に再びバトンを返します。お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、We Are As OneとAl Fineは姉妹曲なんですね。どの辺が姉妹曲なのか、についても触れてもらおうと思います。

それではまた次回をお楽しみに!


山口裕史
Hiroshi Yamaguchi

クローバースタジオ、SEEDSを経てプラチナゲームズへ。ミュージックコンポーザーとして、『BAYONETTA』『The Wonderful 101』『Star Fox Zero』『World Of Demons – 百鬼魔道』『Babylon’s Fall』(リードコンポーザー)、『大神』『MAX ANARCHY』『BAYONETTA 2』『SOL CRESTA』(ミュージックコンポーザー)、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(アレンジャー)、『スターフォックス ガード』(インプリメンター)などの開発に携わる。プラチナゲームズの音楽プロダクション全般を統括、大小さまざまな取り組みを先導している。『BAYONETTA 3』ではミュージックスーパーバイザー及び、テーマソングの作曲を担当。