はじめまして。海外コーディネータ「マイアミのハニーハンター」のJPです。今回はベヨネッタの「英語化」の担当者としてブログを書くことになりました。

何でローカライズって言葉を使ってないんでしょうか?ローカライズというのはソフトの専門用語で、当然ゲームはソフトですが、日本語のゲームを英語に直す重要な作業を考えてみてください。もちろん、サブ画面などのテキストに対しては「ローカライズ」が適切だと思いますが、今回の仕事は主に神谷Dの壮大なシナリオを英訳することでした。

プラチナゲームズに入社する前に、様々なタイトル(三上さんのGOD HANDなど)に関わりましたが、今回ははじめて神谷さんと一緒に仕事させてもらいました。神谷さんの頭の中ではゲームの世界観がきちんと決まっているので英訳がずれていたら失礼だと思って、ちょっとおじけづきました。GOD HANDの時、英語化しようとしたら若干ずれることは必要、そして効率がいいと分かりました。(GOD HANDは70・80年代のポップカルチャーへのラブレターなので、特に意訳が必要でした。) しかし、おじけづいたのに、神谷さんは僕のアイデアを歓迎してくれて、キャラ名や地名などの細かいディテールなど(ロダンの「I LOVE CHICKS」エプロンのデザインとか)色々なところでコラボできました。シナリオの翻訳の時でも、神谷さんとその日に出来た仕事を一緒に確認しながら修正などを相談し、僕が意訳したところをOKかNGか判断してくれました。神谷さんが時間を取って意見を言ってくれたことには本当に感謝しています。日本のディレクターがそこまで海外版に注意を払うのはとってもレアなことです。

神谷さんのシナリオを英語にできるまでいくつか苦労したところがありました。500年後目が覚めて20年間アメリカっぽい都市の文化を味わったヨーロッパの魔女はどのように喋るとか。神谷さんはイギリス訛りにこだわりましたが、僕はイギリス訛りをある程度しか分かっていないのでイギリス人の編集者の力を借りて色々な提案をもらいました。そして、20年アメリカに住んだらその土地の言葉を使うようになりますが日本語のシナリオにはそういう言葉を反映できませんので、ベヨネッタのセリフをどうやって入れればいいかずっと考えました。

そして、キャラ性をどうやって生かすかという問題もありました。(僕の勝手な解釈ですみません…)ベヨネッタは生意気な上流階級の女性で、完璧に自分のことを分かっています。彼女は派手なことや意地悪なことを言う時、それを事前に分かって言うタイプです。ベヨは頭の回転が速いから、普通の人が「言いたかったけど言えなかった」と思うことでも彼女は全部言っちゃいます。ベヨは控えめな部分が全くないが、プレーヤーが「それが丁度いい感じ」と思っていることも彼女は既に分かっています。そのバランスを守ることは翻訳の一番難しいところでした。

一方、ライバルであるジャンヌはもっと控えめで、ちょっと暗い… 冷たくて、厳しい女ですね… でも、気づかないぐらい頭の中ではえらいことが起こっているそうです。女好きで結構擦れているが基本的に優しくていい人のルカを入れたら、ものすごいドラマが生まれます。子供役(セレッサ)、サポート役(ロダン)、ピエロ役(エンツォ)、黒幕(バルドル)など… 特徴的なキャラがたくさん登場する神谷さんの面白いシナリオと、下村監督の素晴らしいディレクションのお陰でベヨネッタのストーリーが本当に魅力的になっていると思います。皆様に楽しんでもらえたら嬉しいです。

ゲーム内テキスト、背景テキスト、ストーリーと関係ないセリフなどの翻訳しなければならない物がものすごくありました。そして、神谷さんの指示で、英語で原文を書いたものも多かったです。すべての文字は意味があるので、細かく調べてみてください。僕がすごく面白いと思う天使のボイスも意味がちゃんとあります。神谷さんに「ベヨネッタが大魔獣を召喚する時、何か迫力があって不気味な言葉を言わせたい」と指示されました。色々調べて、大魔獣召喚だけでなく天使のボイスでも使えるアイデアに辿り着きました。16世紀に英国の王位の宗教顧問「ジョン・ディー氏」は神様がバベルの塔にいた人々に違う言語を話させるようにする前に使われていた世界共通言語を研究していました。ディー氏が発明(想像)したのはエノク語という死語(造語)で、天使が喋る言語だといわれているものです。ベヨネッタでは、トーチャーアタックや大魔獣召喚などは全てエノク語のセリフで召喚しています。ゲーム内の天使も全員エノク語で喋っています。

簡単な辞典以外のエノク語の参考資料は非常に少ないので、言語学に使う「行間注解」(今回は形態音韻的に書き直した)を作って、構文と理解論を頭の中に理解しようとしました。こんな感じで訳しました。

enochian

僕の訳が出来たら、神谷さんはすべてのセリフを読んで英訳のニュアンスを含めた読みやすい字幕を日本語で書きなおしました。神谷さんがその作業をやってくれた事によって、国内のユーザによりクオリティの高い字幕を提供できたと思います。神谷さんの高い英語力を借りられてよかったと思います。神谷さん、ありがとう!(…実はいつも神谷さんに怒られていました。笑)

おまけのエノク語:ジョイのTAの時、ベヨネッタのセリフは「PIADPH」です。意味は「死地に陥って」です。

ゲーム内のキャラが言うボイスセリフや魔法陣などにあるエノク語を探してください!次回はベヨネッタに参加してくれた声優さんたちを紹介しようと思っています。

Qaal ovof vomsarg! (またエノク語かよ!)