AIに愛を込めて

こんにちは。プログラマの上井です。

今日はですね、遂にこの僕が登場する回となってしまいました。

時間とは一瞬で過ぎ去るものです。

それは僕ら新人の一年も同じこと。

働き出してからの一年はそれはもう超スピードでした。

まだ校門すらくぐってないのに、聞こえてきたと思ったら鳴り終わったチャイム並みの速さです。
嫌ーな速さです。油断してたら終わりです。
高校の頃のチャイムは中学までのチャイムより1.5倍ほど速くなったので凄く腹が立ちました。

まぁそんな話をしたいわけではなくてですね。
今日はこの、遂に、満を持して登場した、僕が今している仕事についてお話したいと思います。


僕は今、敵のAI(人工知能)を作っています。

敵といっても色々ありますが、僕が作っているのはボスキャラなんて華々しい連中ではありません。

普段僕達がコントローラーを握り、虫けらのように蹴散らしていく雑魚キャラなのです。

 
「なんやねん雑魚かい」

 
と、思ったそこのあなた。

雑魚を侮ってはいけません。

時にはイベントの演出として、時には大群でプレイヤーの前に現れ、そして数秒で倒されていく。

しかし、画面に映ったその数秒、

その数秒で真価を発揮するのが雑魚なのです。

一つ一つは小さな存在ですが、ラスボスよりも、中ボスよりもゲームに登場し、最もプレイヤーに接し、その一つ一つが行う数秒の攻防で、ユーザーに小さな戦闘の駆け引きと、倒した際の爽快感を与え、主人公を引き立てるのです。

 
ユーザーにとってみれば、ただ倒されに来たやられ役にしか過ぎないかもしれません。

しかし、そのやられ役を演出する為、職人達は苦労を重ねているのです。

 
前述の通り、雑魚は一番多くプレイヤーの前に姿を現します。

その雑魚がストレスを感じさせるものだったらどうでしょう。
ユーザーのゲーム体験の大半が、ストレスで埋め尽くされてしまいます。

達成感を与えるために多少のストレスを加えることがあったとしても、ゲームは娯楽であり修行ではありません。

ユーザーに楽しいゲーム体験を与える為に、雑魚キャラはよりストレスフリーである必要があるのです。

 
かといって、マヌケなAIであっという間にやられてしまうような雑魚キャラでは、ユーザーは戦闘が作業的だと感じてしまうでしょう。
アクションゲームではこれは致命的です。

普通に闘うと少しダメージを受けるが勝てる。
本気で闘うとノーダメージで勝てる。
油断するとやられる。

といった、攻撃を調整しきった絶妙なAI

そして、理不尽すぎないパラメータ

これらが満たされて初めて、ユーザーが楽しいと思える真の雑魚キャラが誕生するのです。

 
 
はい、偉そうなことを語っていますが、僕の作っているAIがそれを満たしているかと言われると、です。

難しいのです。雑魚キャラのAIは。

あるとき先輩から、
「雑魚は一番難しい」
と言われましたが、本当にその通りだと思います。

これまでは、何も考えず「こいつらアホやなー」とか言いながら雑魚を無慈悲に狩っていました。

しかし雑魚キャラを作るようになって、その雑魚キャラの真の魅力に気づいたのです。

そして先ほど、雑魚を無慈悲に狩っていると言いましたが、本当は、

雑魚に無慈悲に狩らせて頂いている

ということにも気づいてしまったのです。

 
凄まじき職人魂

特撮ヒーローの敵戦闘員のスーツアクターのようです。

いかに美しくやられ役を演じるか。

これは美学であり、芸術です。

手塩にかけて育てた雑魚キャラが、他の人達に瞬殺されていく様子を見るのは心が痛いです。

こっそり自分のPCだけ雑魚を最強にして、プレイヤーがやられていく様を楽しんだりもしてます。

普通に強いまま実装し、怒られたこともあります。

逆に、
「いい動きをするようになった」
「倒した時のリアクションがいい」

等と言ってもらえると、やはり嬉しいです。

AIはプログラマーの腕が強く反映されるので、作っていくのはかなりやり甲斐があります。

 
これを読んでいるプログラマー志望の皆さんの中にも、「雑魚アホやなー」などと思っている人がいるでしょう。

しかしそれは大きな間違いです。悔い改めましょう

そして雑魚を崇めましょう

今日から、雑魚と闘っているときは攻撃の手を止め、彼らを観察しましょう

 
プレイヤーが近づくとどんな挙動をするのか?

離れすぎると?

ジャンプすると?

アイテムを使うと?

回りこむと?

回りこまれると?

 
より芸術的に倒される為に雑魚キャラはあらゆる行動を取ります。

注意して見ることで、その真髄に触れることができるのではないでしょうか。

 
 
余談ですが、この会社では自分のデスクの上を結構フリーに使えます。

大量のフィギュアを飾っている人もいれば、小難しい本を重ねている人もいます。

砦を作っている人もいます。

他にもいろんなデスクの持ち主がいるので、入社した際には是非見て回ってみてください。

ちなみに、僕はレコードプレイヤーを置いています。

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この仕事をしているとどうしても会社にいる時間が長くなるので、ささやかな癒しとして就業時間外に聴いています。

しかもこうして自分のものを置いておくと、他の人が興味を持って話しかけてくれることが増え、交流の機会も得られるのでオススメです。

 
最近の僕のお気に入りのレコードは、The Rolling Stones「Let it bleed」ですね。

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こいつぁ最高です。

ローリングストーンズの魅力が宝石箱のように詰まっています。
というか宝石そのものです。

話すと長くなるのでここでやめますが、興味のある方は入社後に僕の席までお越しください。

 
では皆さん、僕はここで失礼します。
この記事を読んで敵のAIに興味を持った方、ロックンロールが大好きな方、いつでもWelcomeです。一緒にゲームを作りましょう。