どこの国?

今日から僕は滝沢です。
マイブームはミステリー小説を読むことで、最後に読んだのは東野圭吾・著の『パラドックス13』です。
広大な宇宙について考え出すと、自分が知性を持った生命体であることが妙に不思議になって、僕の思考だけがベッドの上からシャボン玉のように浮かんでいくような感覚を味わうことがあります。
『パラドックス13』を読みふけった夜はそんな感覚に襲われて、なかなか寝付けませんでした。
思い返しても読書だったとは思えない、恐ろしく動的な体験になりました。
実は、この年になるまで小説といえば星新一ぐらいしか読んだことがなかったものですから、活字(特に文学)には疎いのです。
しかし、感受性豊かな思春期が遠い過去となった昨今、遅ればせなら、僕はついに活字に目覚めてしまいました。
僕に湧き始めた興味は、子どものそれのように純朴そのもの、まっちろけ。
せっかくなので「年間50冊」を目標にして、読書に励みたいと思います。
(1月15日現在3冊 『容疑者Xの献身』 『告白』 『パラドックス13』)
 
前置きが長くなりましたが、今回のお題は「失敗談」です。


僕の記憶中枢に「仕事, 失敗談」というキーワードで検索をかけてみたところ、とても分かりやすいエピソードがあったことを思い出しました。
それは入社して間もない頃のことでした。
BGM制作の研修として、僕は自分で何かテーマを決めて、それに則った楽曲制作を行っていました。
選んだテーマは、同期のドナテロがデザイナーの研修で考えた架空のゲームです。
まず、ドナテロの描いたパッケージイラストを借りて、それを手元に置いて眺めたり、彼とゲームの設定について話し合ったりしながら、BGMとして相応しい音楽をイメージしました。
頭の中で、漠然と「なんか民族音楽っぽくしよう」という方向になりました。
僕は、世界中の民族楽器を使って、とりあえず異国感の漂う雰囲気を目指し、そうして形になった曲をさっそく上司にチェックしてもらうことにしました。
「どこの国をイメージしたん?」
上司からそう問い質されて、僕は戸惑いました。
というのも、選んだ楽器に国や地域の統一感などなかったからです。
ドナテロの考えたゲームの世界観はとてもファンタジックで、SFの要素もあったため、僕はその場所を現実になぞらえて考えようとしませんでした。
音楽として成立するなら、どんな楽器を使っても良いだろう、と安直に判断していたのです。
しかし、例えば琴や三味線といった日本の伝統的な楽器の音色といっしょに、賛美歌のようなコーラスが聴こえたとしたら、人は不思議に思うでしょう。
なぜなら、楽器や音色によってイメージされる情景は異なっているもので、そのイメージはおおよそ関連のある国や地域に限定されるからです。
民族楽器は特に国柄や地域色が強いので、僕の曲の場合、聴く人によっては「なんでこの楽器とこの楽器が混在してるの?」という疑問を抱かざるを得ないわけです。
よって、民族楽器がどこの国で生まれたものかを調べ、それを考慮した楽器構成を考える、というプロセスを怠った結果、イメージを混在させるだけでなく、さらに音楽としての「なんちゃって感」をも強めていました。
ハープは北欧っぽいし、パンフルートは南米っぽいし、シタールはインドっぽいし、ウドゥはアフリカっぽいし、音階は和風だし、でも設定画は雪山っぽいし……。
今考えると、あの曲は本当に支離滅裂でした……。
「どこの国?」事件を踏まえて、以後の楽曲制作においては、例え空想の世界観であったとしても、音色によって一定の地域を連想できるような楽器選びを心がけています。
画面に木が少なければ乾燥地域の楽器であったりとか、水や緑が豊富であれば湿潤な地域の楽器であったりとか。
実際に触った経験のない楽器を取りざたすことがほとんどなので、どのみち「なんちゃって感」は出てしまいますが、なるべくリアルな情景がイメージできるような、世界観を大事にしたBGMを作っていきたいところであります。