こんにちは、2年目ゲームデザイナーのマーリュスです。

前回は「石頭」を避けるために複数の観点を持つことが大事 、ということを書きました。今回のブログのテーマは、複数の観点から見ても同等な価値があるものの中から、どうやって僕が最も良いと思うものを選んでいるか、という話をしたいと思います。

前回「ゲームジャム」の話でも書いた通り、ゲームをいくらプレイしたとしても、いくら分析したとしても、自分で作ってみないと気付かないこと、わからないことが必ずあります。例えば開発現場では、プレイヤーキャラクターの体力ゲージを画面の上部に表示させるか、それとも画面の下部に表示させるか、そもそも画面に表示しないほうがいいのか、といった議論がかなりの頻度でなされます。体力ゲージを「画面の上部に表示」したほうが良いという意見も、「画面の下部に表示」したほうが良いという意見も、さまざまな観点から見てみればそれぞれに理由が見つかります。そこで考えなければならないのは、開発しているゲームのコンセプトとそのゲームで作り上げようとしているプレイヤー体験がどのようなものか、です。

前述の例をもとに、2パターンのユーザーインターフェイス(以下UI。プレイヤーキャラクターの体力やスタミナのゲージや現在選択中のアイテムなど、プレイヤーにとって重要な情報を可視化して画面に表示したもの)から、どちらを選ぶべきか考えてみたいと思います。(実際のゲームのUIは複数の要素から構成されており、表示位置や方法なども一様ではありませんが、ここでは説明のために単純化します)

それではまず、UIの殆どが「画面の下部」に配置されているゲームと「画面の上部」に配置されているゲームをいくつか挙げてみましょう。


※プレイアブル画面は0:20付近から確認できます

UIが主に画面の下部に配置されているゲームは、ジャンルで言えば、一人称視点シューティングゲーム(以下FPS)が多いと言えましょう。FPSの先祖とも言える『Wolfenstein 3D』や初代『DOOM』を始めとして、近年リリースされたそれぞれのシリーズの新作やFPS寄りのRPGである『Fallout 4』まで、UIの最も重要な要素が画面の下部に配置されています。一方で、プラチナゲームズが得意とするアクションゲームや三人称視点シューティングゲーム(以下TPS)、例えば最近のものを挙げるなら、『NieR:Automata』や『Horizon Zero Dawn』などのUIでは、最も重要な要素は基本的に画面の上部に配置されています。


※プレイアブル画面は1:00付近から確認できます

ゲームにおけるUIの理想像は「プレイヤーに過剰に意識されずに、必要な情報を伝達するもの」であるとよく言われているので、普段から注意して見ていないと気付かないかもしれませんが、なぜそうなっているのか、僕と一緒に次の段落に進む前に少し考えてみましょう。

理由は思い当たりましたか。
僕はUIのデザイナーではないので、理解が足りていないかもしれませんが、自分なりの考えをお伝えしますね。

まずFPSはプレイヤーキャラクターが画面上に映されていない状態で、敵の姿やお互いの撃った弾丸を見ながら戦うことがゲームプレイのほとんどを占めています。仮に画面を上中下に3分割すれば、FPSを遊ぶための最も重要な情報は上と中央の2つに集中しているのではないでしょうか。そのため、体力ゲージや弾薬の残数などは、より緊急性の低い画面の下部に表示させることが多くなっているのだと思います。また最近のFPSでは体力が自動回復するし、弾薬も近付いたら勝手に拾うため足元をあまり意識する必要がなく、敵も基本的に目の高さか目線より上の位置から襲ってくるなど、画面の上半分にUIを配置しないほうが良い理由は他にも考えられます。

次に、アクションゲームやTPSの場合はどうでしょうか。プレイヤーキャラクターは画面の中央よりやや下に表示されることが多く、プレイヤーと敵の位置関係や、敵の攻撃をちょうど良いタイミングで回避する仕様が要になっているゲームの場合は、敵が攻撃してくる予兆や、その攻撃の範囲がはっきり見えないとゲームプレイの支障になるため、UI表示は基本的に画面の上部に置くことが最適なのだと思います。

話が長くなってしまいましたが、この例で言いたかったのは、デザインにおける全ての問題は、そのゲームがどのようなプレイヤー体験を目指しているかをよく理解した上で、それに沿った解決策を出すことが重要なのではないかということです。弾薬や回復アイテムなどといった資源の管理をさせたいゲームではそのアイテムを与えまくったりしないし、視界に入る地形をだけ頼りにして探検をするゲームでは、いつでも閲覧できるマップは入れないでしょう(そういったゲームを作る場合、今度は地形だけで身動きが取れるレイアウトやデザインにすることを心掛けないといけないのでしょう)。これはつまり「コンセプトという指標を決めて、それを基に全てのデザイン問題を解決していけば、一貫性のある完全なデザインができるのではないか」という考え方で、僕はそれを目指しています。

前回から2回に渡って、僕がゲーム制作において心がけている「どのようにして発想の幅を広げているか」「その広がった選択肢の中から何を基準に最適なものを選ぶか」について紹介しました。皆さんがゲーム制作で迷うことがあったときの助けになれば幸いです。

それでは、読んで頂いて、ありがとうございました。夢を追い掛ける優秀な学生さんにお会いできることを楽しみにしています!




Mariusヘルマナービチュス・マーリュス Hermanavicius Marius
2016年にプラチナゲームズにゲームデザイナーとして入社。これまでは主にレベルやクエストのデザインをしてきました。

過去記事:
石頭が天敵! ゲームデザインと日常生活で心掛けていること。新しい観点に出会える“ゲームジャム”とは?