フレッシュマンブログをご覧の皆様、ご機嫌いかがでしょうか。ゲームデザイナーの中園です。前回の記事では『ゲームデザイナー(プランナー)』という存在をいかにして知り今に至ったかについて書かせていただきましたが、今回は各ゲーム会社へ送るための企画書を制作したことについて書かせていただくことで、皆様の企画書制作に向けた参考のひとつになればと思います。

そもそも私がゲーム業界へプランナーで応募する際に、いくつかの企画書の作成が必要なことを知ったのは大学三年生だった年明け1月の頃でした。十分に手をかけて作成するには万全とは言えない、やや遅い時期です。今にして思えばなぜそんな状態でうまくいったのか、あの頃の自分は何かおかしかったと思わずにはいられません。とはいえ、それまでに幾度か大学の作品制作で企画書を制作した経験もあったので、そのノウハウを活かして以下のフローで企画書を制作しました。


<当時行ったゲーム企画書制作のフロー>

  1. スケッチブックやメモ帳などに頭に浮かんだ言葉、現象などを思いのままに書き、気になるものがあったらピックアップして、どんなゲームになるのか軽く1~2行の文で書く。
  2. ピックアップしたものをもう一度厳選し、企画書にできそうだと思うものを決める。そしてそれに関連がありそうなことや既存の例、資料などを調べて集める。
  3. 上記作業と並行して、自分がどんなゲームを作り、それがユーザーにどんな影響を与えるのか、ゲームの目的(コンセプト)を考える。
  4. 自分が決めたネタについて、ある程度資料や知識が集まったら、設定したコンセプトを達成する表現=遊びを考える。そしてその遊びのルールを考えゲームにする。
  5. ここまでに考えた内容を、自身の感性を基に企画書にし、いろいろな人に見せて修正を重ねていく。
  6. 時間が許す限り何度も作り続ける。



そしてこのフローに沿って制作した、いくつかの企画書の中の1つがこれです。


それでは前述したフローによって、この企画書がいかにして作られていったのかを振り返っていきましょう。


  1. 「スケッチブックやメモ帳などに頭に浮かんだ言葉、現象などを思いのままに書き、気になるものがあったらピックアップして、どんなゲームになるのか軽く1~2行の文で書く」
  2. 大学時代に作品を制作していたときは、あらかじめ何らかのテーマ、モチーフを基にして創作の幅を広げていったものですが、今回はビデオゲームということしか決まっていなかったので、どんなゲームを作るのかということをまず決めなければなりませんでした。その中で上記の企画書(ライト&ゴースト)は数多く書いた言葉の中で『叫ぶ』が元になっています。

    画像はすでにピックアップした後のものですが、この時点だと「叫ぶと何かが起きるゲーム」程度のものになっています。私としては、アイデア出しの時点では細かいところまで決める必要はないと思っています。選んだ言葉や現象にどれだけの可能性があるのか、広げたままにした方が後々の制作段階で役に立つことの方が多かったからです。

  3. 「上記でピックアップしたものをもう一度厳選し、企画書にできそうだと思うものを決める。そしてそれに関連がありそうなことや既存の例、資料などを調べて集める」
  4. この段階で、『叫ぶ』で企画書が制作できるのではないかと思い、『叫ぶ』を基に企画書制作を始めます。作品を制作する時はいつもそうでしたが、テーマに対して自分がこうだと思う前に、そのテーマについていろいろ調べることが大切です。自分だけの視点だとどうしても偏りがちになるので、一度選んだテーマの意味を調べることから始め、それを広げていく必要があります。『叫ぶ』の場合は、どの種類の“叫ぶ”になるのかということを決める必要がある点や、そもそもどういったときに叫ぶのかということも洗い出す必要がありました。

  5. 「上記作業と並行して、自分がどんなゲームを作り、それがユーザーにどんな影響を与えるのか、ゲームの目的(コンセプト)を考える」
  6. 自身が決めたテーマの資料集めをしつつ、自身が作成するゲームのコンセプトを考える必要があります。私としてはビデオゲームを通じて人の生活を豊かにしたいと考えていたため、『叫ぶ』を通じて何らかの形でそれが実現できないかと思っていました。上記工程の考察部分ですが、当時のメモがあります。

    はじめに『叫ぶ』をscream(恐怖や痛みからくる叫び)と定義づけており、すでにホラー路線で制作を進めようとしているようです。しかし途中からは「叫ぶこと=ホラーを楽しむこと」と書かれています。当時の私としてはコメディに対する最大の賛美が笑いであることから、ホラーに対する最大の賛美は怖がって驚き叫ぶことだと思っていたのでしょう。最終的に「叫んで慣れる」ということを仮のコンセプトとして遊びの制作に移ったようですが、最初に掲載した企画書を見直していただければわかるように、結局は大きく違ったコンセプトになっています。これについては次の工程でお話ししましょう。

  7. 「自分が決めたネタについて、ある程度資料や知識が集まったら、設定したコンセプトを達成する表現=遊びを考える。そしてその遊びのルールを考えゲームにする」

  8. まず先に「叫んで慣れる」をそのままに軽く書いたゲームの企画をお見せします。

    相手への妨害をしつつされつつ、ゴールを目指す対戦型のホラーゲームのようです。ゲームという媒体を利用して先に挙げた「叫んで慣れる」を実現しようとしていますが、正直色々と飛躍しすぎているような気がします。ただ、これが大本となって上記の企画へと変化することになります。その変化のカギとなったのは、バラエティ番組のドッキリ企画でした。楽屋の照明が突然消えたり、床が突然開いたりなどドッキリの例はいろいろありますが、注目すべきはドッキリを仕掛けられた側のリアクションです。仕掛けた側や我々視聴者のような立場から見ると、ドッキリにかかった瞬間の叫びを始めとする数々のリアクションは、かなり滑稽に見えます。要は仕掛けられた側をバカにしているということになるのですが、個人的にはこれがホラーにも当てはまることだと思ったわけです。身近な例だと多人数での肝試しやホラー映画の鑑賞などがわかりやすいと思いますが、怖がりな人がおびえているのを見て周囲がそれをからかうという場面があります。こういった場面をゲームで作り出すことで先に挙げた「叫ぶことで生活が豊かになる(この場合、笑いが生まれる)」を実現できるのではないかと確信し、コンセプトを「叫んで慣れる」から「みんなで遊び、誰でも楽しめるホラーゲーム」へと変更することにしました。また同時にどういった遊びをベースにゲームにするのかも決まることとなります。
    まず遊びの部分は「相手を怖がらせる」「絶対に怖がってはいけない」というのがベースになり、怖がらせる側と怖がってはいけない側に分かれることになります。ベクトルは違いますが、にらめっこみたいなものです。またこうすることでホラー嫌いな人が怖がらせる側になったときに、相手を怖がらせる楽しみを覚えつつ、ホラーに慣れていけるのではないかとも考えました。次にこれにルールを加えなければなりません。そこで、この工程で最初に挙げた軽いゲーム企画を組み合わせていき、それを1ページでまとめた結果、以下のような形に収まりました。

    最初に掲載した企画書に大分近い形になったことがわかると思います。ここに性能の違いや駆け引きなどゲーム的な要素を注ぎ込み、最終的にパーティーゲーム風の物へと仕上げていくことになります。

  9. 「ここまでに考えた内容を、自身の感性を基に企画書にし、いろいろな人に見せて修正を重ねていく」
  10. 前回のブログでお話ししました通り、美大で作品を制作する際に企画書を制作することもありましたので、ゲームの企画書も以下のことに注意して制作しました。

    • コンセプトは初めに持ってくる(何をしたいか、言いたいかをすぐわかるようにするため)
    • 見出し部分は確実に目につくようにする(文字の大きさ、色、フォント。目を引くイラスト)
    • すぐ読めるように文字はなるべく少なくする

    もちろんこれ以外にも企画書を制作するうえで大切なことは多々あると思いますが、この記事の冒頭でも書いたように、あくまでも参考例の一つだということを忘れないでください。自分が作成するゲームに合った物を制作することが大切です。また一度作成したら周囲の人(家族、友人、先生など)に見てもらうことを強くお勧めします。一番の近道はゲーム業界の方々に見てもらうことですが、そんな機会はなかなかありません(逆にある人は存分に有効活用をしてください)。周囲の人たちがゲームに詳しくないからといってバカにしてはいけません。そういった層の人たちが興味を持つゲームを制作するのも大切なことです。感想やフィードバックをもらったらすぐに修正に取り掛かりましょう。

  11. 「時間が許す限り何度も作り続ける」

  12. 特にここについては語ることはないですが、自分が納得する限り何度でも作り直したり、新しく企画書を作成したりします。プランナー志望の皆さんはすでに企画書の2~3案は完成していると思いますが、そうな方もそうでない方もゲームの企画を考えること事体、二度とないことかもしれませんので、全力を尽くして書き上げてください。


繰り返しになりますが、今回私が挙げた企画書の制作方法は参考例の1つです。過去のフレッシュマンブログを見ると別の方が別の方法で企画書の書き方を紹介している記事もあります。さらにインターネットとは便利すぎるものでゲームの企画書の作り方というものは、検索すれば簡単に出てくる時代です。書籍や講演などを漁る手もあると思います。何より重要なのは“企画したゲームが面白いかどうか”だと思うので、先にも言いましたが時間の許す限り全力で書き上げてください。以上です。ここまでご覧いただきありがとうございました。

(ちなみに今「叫ぶ」をテーマにしたゲームを作るならマイクに向かって必殺技名を叫ぶゲームになると思います。私だけが面白いと感じるゲームになることは間違いないので、皆さんはもっとユーザーフレンドリーなゲームを目指しましょう)





nakazono中園 大夢 Hiromu Nakazono
芸術大学出身のゲームデザイナー。今年の目標は「確立」である。
最近コーヒーを飲んだら胃が長時間ムカムカし続ける目にあったことから、二度と飲まないことを決心する。

過去記事
美大出身のゲームデザイナー。パラメーター調整から声優候補選定まで。ゲームデザイナーのお仕事 in プラチナゲームズ