初めまして、プログラマーの朱です。

「2017年度新卒」として内定をもらいましたが、卒業が早かった関係で実は2016年10月にプラチナゲームズに入社しており、今や2年目に突入したばかりです。「フレッシュマン」と呼べるかアヤシイですが、少しの間お付き合いしていただければと思います。

お察しの通り、日本人ではありません。香港人です。香港で育ち、香港の大学を卒業して、日本のゲーム業界に憧れて日本の大学院に進学して、卒業後にプラチナゲームズに入社しました。母語は広東語ですが、学校で英語を習いました。日本語は『真・三國無双』シリーズを何千時間もプレイしているうちに覚えてしまいました。

日本で働く上で日本語は必要不可欠ですが、ゲーム開発においては英語もまた重要です。英語が読めればGDCGamasutraなど、海外の技術情報や業界情勢を直接受け取れます(GamesIndustry.bizIGNのような日本語サイトのあるメディアでも、日本語に翻訳されないコンテンツが多いので、英語の本家を読むとより情報源が広がります)。またプログラマーがコードを書く時も、変数・関数の命名は英語基準になりますので、英語ができればより読みやすいコードが書けます。

とはいえ、僕も英語が得意だったわけではありません。学校での英語の成績は中くらいでしたし、別に英語が好きなわけでもありませんでした。英語が上達したのは、大学の頃でした。

語学というものは、一ヶ月の猛特訓で身に付くものではありません。毎日少しずつ、じわじわと浸透させていくものです。僕が大学生として過ごした2010年前後は、ちょうど欧米ゲームの隆盛と重なりました。

当時『グランド・セフト・オート』シリーズや『アサシン クリード』シリーズ、『アンチャーテッド』シリーズをはじめとした海外発の家庭用ゲームは、アジアでも注目を集めていましたが、それと時を同じくして、ゲーム評論ブログ・書籍も台頭し始めていました。

レビューや懐古とは一線を画して、デザインや文学、美学、社会学など、様々な視点からゲームの本質や意味を語るゲーム評論。当時のものなら、Clint Hocking氏の「Ludonarrative Dissonance in BioShockTom Bissell氏の「Extra Lives: Why Video Games Matterがその最たる例でしょう。

大学では英語で授業を受け、暇な時間は英語のゲームやゲーム書籍、ブログを堪能する。常に英語に浸れる環境ですから、英語力が知らず知らずのうちに向上していきます。

英語を勉強したいなら、ゲームなり映画なり記事なり、毎日でも見たいほどに好きなものを見つけるのが大事です。

ちなみに「洋ゲー・ゲーム評論」という趣味は今も続いています。むしろ、ゲームよりもゲーム評論を読む方が好きです。メディアやブログの記事はインターネットで気軽に読めますし、洋書もアマゾンで電子書籍を購入できます。電子版を読んで感銘を受けた本は、印刷版もコレクションとして買って机に置いています。会社のデスクには、好きな本がずらっと並んでいます。

その中で、就活生の皆さんにオススメしたいのは、Cara Ellison氏のEmbed with Games: A Year on the Couch with Game Developersです。

スコットランドのゲーム評論者・ジャーナリスト・クリエイターであるCara Ellison氏が一年間、世界各地のインディークリエイターの家に同居して体験した、彼らの生活とゲーム作りに込めた思いを語ります。評論というよりは道中記埋め込みジャーナリズム(Embedded Journalism)に近い内容です。

個人でゲームを作る人がいれば、ロサンゼルスのGlitch Cityのように、インディークリエイターが共有スペースに集まって支え合うようなコミュニティもある。男尊女卑の文化に憤り、女性を主人公にしたゲームを作る人もいる。ゲームを通して政治を批判したクリエイターもいる。ゲームを以って性的テーマを語る者もいる。他人と触れ合うことで創作意欲を掻き立てられる人間もいる。インディーゲームクリエイターの十人十色の生き様が描かれています。

本書に登場するクリエイターといえば、『Gone Home』の共作者であるKarla Zimonja氏に『Thirty Flights of Loving』で有名なBrendon Chung氏、2016年「Forbes 30 Under 30」で表彰されたNina Freeman氏Adriaan de Jongh氏など、名だたる創作者たちが勢揃いです。その中でも、日本のゲームファンが一番気になるのは、『Downwell』を作った麓 旺二郎氏ではないでしょうか。

幼い頃をニュージーランドで過ごし、『Braid』や『Super Meat Boy』を始めとしたインディーゲームズに心惹かれてゲーム作りに手を出した麓 旺二郎氏。本書は、氏の日本ゲーム文化に対する厳しいコメントを掲載しています:

「残念ながら、日本のゲーマーは女性キャラばかりに目を向けて、良いゲームデザインをあまり重視しない……あなたが話に出した会社やゲーム ー 『ダークソウル』やプラチナゲームズ作品 ー 彼らは日本ゲーム業界の例外だと思う。彼らはチャレンジして新しいものを作り出している。だが、大抵の会社はキャラクターデザインに大金を叩いている一方、新しいデザインにはさほど注力しない」(筆者訳)

‘It’s really unfortunate, Japanese gamers don’t really focus on good game design. Instead they focus on girls… And the companies you mentioned, the games you mentioned earlier –Dark Souls, Platinum Games –they are the exception in the Japanese game industry, I think. They actually challenge and make new stuff. But most of the companies spend a lot of money on character design. Not much on new design.’

Ellison, C. (2015). Embed with Games: A Year on the Couch with Game Developers. UK: Polygon Books. pp. 149.

僕がこの本を読んだのは、就活中のころでした。麓氏のコメントには頷きました。僕を日本のゲームに惹きつけたのは、アニメ風なキャラクターではない。『デビル メイ クライ』シリーズのような、巧みにデザインされたアクションでした。『ベヨネッタ』や『ヴァンキッシュ』、『メタルギア ライジング リベンジェンス』など、新たなアクションを次々と作り出したプラチナゲームズは、日本のゲーム業界の中でもひときわ鮮烈な存在だと感じました。

就活の末に大手ゲーム会社から内定を頂きながら、プラチナゲームズへの入社を決意しました。Cara Ellison氏と麓氏の会話に背中を押されたのです。

本書は2014年中に書かれたものですので、現在の事情に合わないところもあります。ですが、ゲーム創作とインディーゲームズを理解するための貴重な文献であることに変わりありません。

Cara Ellison氏の文章は、純粋にして簡潔明瞭。数あるゲームジャーナリスト・評論家の中でもトップクラスの文章力だと思います。英語に慣れていない・英語力を上げたい人にもオススメできる一冊です。しかも、Kindle版は現在アマゾンでラーメン一杯くらいの価格で販売されていますのでお手頃です。

ゲーム業界を志す皆さん。あなたは、なぜゲームを作りたいのか。どんなゲームが作りたいのか。「Embed with Games」を手に取りながら考えてみませんか。




chu朱 晉賢 CHU Chun Yin
香港出身、2016年10月入社したゲームプログラマー。社内ライトニングトークという名目で、ゲーム関連の書籍・講演・評論記事の布教活動を推進中。