こんにちは、ゲームデザイナーのティナリ アビビです。今日はクレーンゲームの初体験について話したいと思います。

私の母国(カナダ)にはクレーンゲームが少ないので、幼い頃にはプレイするチャンスがなかったのですが、高校の頃、日本のゲームセンターについての本を読んで知りました。クレーンゲームの画像や説明が書いてありましたが、派手な格闘ゲームの筐体、複雑な装置の付いている音ゲーの筐体、ガンダム等のでっかいコックピット式筐体と比べると、クレーンゲームの魅力は全然伝わりませんでした。どうせ通り掛かる一般人を誘惑するためのもので、真面目なゲーマーである僕が気にするほどのものではないと、偉そうに思っていました。

あの本を読んでから8年が経ち、今では日本のプラチナゲームズで働いていますが、クレーンゲームが溢れるほどあちこちにある大阪に住んでいるのに、まだ昔の偏見が残っていたため、クレーンゲームを真剣にプレイしようと思ったことはありませんでした。しかし、ある日ツイッターで私の大好きなゲームキャラクターのグッズが発表されました。それはクレーンゲーム限定の景品だったのです。

調べたところ、その景品はクレーンゲームから取らなくてもネット通販で買えることが分かりました。しかし、自分のゲームの腕前に対する甘い過信に満ちた私は自分の手で取ると決心したのです。その結果は……まあ、英語のことわざで表しますと:「愚者と金はすぐに別れる(A fool and his money are soon parted. )」。
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※このクレーンゲームは、アームを操作して棒に引っかかった紐を外せば景品が落ちてくるというものでした。

結局、欲しかった景品は取れましたが、財布へのダメージが大きかったです。相次ぐ100円玉の挿入…財布が軽くなるにつれ、ここまで来たら絶対に手ぶらでは帰りたくないというプレッシャーが重くなってきました。真冬なのに手が汗だらけで次のコインが落ちそうになり、ジャケットを脱ぎました。そして長い戦いの果てに景品が落ちてホッとする気持ち。あの当時は獲物を落とすことに頭がいっぱいだったからそれ以外のことを考える余地は1ミリもありませんでしたが、冷静になった帰りの電車で私はこう思いました:

「クレーンゲームのゲームデザインをなめていました。」

例えば、以下の要素にゲームデザインの深い考えが見えます:

  • 目標が明確。透明なガラスから景品がよく見えて、自分は何のために頑張っているのかがよく分かる。目をあげるといつも「ほ〜らここにあるよ」と言わんばかりに誘惑している。
  • 自分の操作は全部重みがある。一瞬の間違いでお金がパーになり、過ちが重なるとプレッシャーが半端なく跳ね上がる。
  • 進捗を感じさせる手応えがある。景品が端っこに近づくたびに、毎回「次だ!」と思ってしまう。
  • でも、毎回景品が何かわからない超能力でギリギリ吸着して落ちへん!
  • 最後にドカーンと景品が落ちてくる時のカタルシス。

プラチナゲームズで開発しているゲームはほとんどコンシューマーハード向けのアクションゲームです。クレーンゲームと我々のゲームの売り方は大分違い、もちろんゲームデザインやゲームの構成も異なります。基本的にお客さんであるプレイヤーが最初に払ったお金に見合う価値を与えられるように、最初から最後まで楽しめるゲームを用意するように努力します。

しかし、実はそれをするためにクレーンゲームと同じ感情を沸かせるようにすることが多いです。巨大なボスとの決戦を想像してください。派手な演出、壮大な音楽、ドラマチックなストーリーでプレイヤーのしていることに重みを与えます。成功することは意味があると感じさせなければなりません。一か八か!

ボス戦の最中:ボスが死にそうになり、プレイヤーが気を抜くところでボスが変形する! 端っこでぶらぶらしている景品と同様にプレイヤーに希望と逆境を与えます。

そしてやっとボスを倒した時には達成感やカタルシスが必要です。 もちろん物質的な景品をあげることはできませんが、ゲーム内のもの(新しいアイテム、お金、経験値、ランキング、かっこいいイベントシーン)で価値のあることを成し遂げたと感じさせます。難易度は設定にもよりますし、世界中で何万人も達成できた簡単なことかもしれませんが、それでもこのような演出とご褒美で達成感を提供することができます。

今回の体験に反省したので、もうクレーンゲームをプレイする予定はありません。しかし、公に言いたくないぐらい100円玉を入れてしまった事実にもかかわらず、お金やプラスチックのフィギュアよりも重要なレッスンを手に入れたと思います。

ゲームの操作やシステムは確かに大事ですが、ゲームはそれだけではないです。プレイヤーを没入させ、感情移入させ、使命の重要さを感じさせる演出もやっぱり大事です。これがないと失敗した時にもう一度チャレンジしたくはならないし、これがあるおかげで成功した時に本当の達成感を味わえるからです。