昨年に続いてブログを書くことになりました。ゲームデザイナーのティナリ アビビです。日本に来てから私の財布が太くなりました。残念ながらいっぱいにしているのはお金ではなく、ほぼ全部の店が発行している「ポイントカード」です。
店はなぜポイントカードを顧客に渡すのか?それは私たち消費者にどのような影響を与えるのか?
ある意味でこれらのポイント制度はゲームの「システム」と同じようなものです。ゲームにおいて「システム」という単語は広い意味を持ちますが、簡単に説明すると…
ゲームのシステムは「成功・失敗と報酬を制御するルール」を指します。
ゲームをプレイする時には目標があります。プレイヤーは持っているツールや能力を使ってその目標を達成しようとします。ゲームデザイナーの仕事の1つは、目標を達成するために一番楽しい方法を利用するように導くこと。
例えば、3つの武器のあるゲームを想像してみてください。チームのアーティストとプログラマーが頑張ってそれらの武器を全部作って実装してくれたわけです。基本攻撃に加え、各武器は振る時のスタンスが複数あります。
システムをうまく設けない場合:
- 武器Aの基本攻撃が明らかに有利で、それさえ使えば敵を効率よく倒せる。
- 他の武器や攻撃を使っても特にご褒美がなく、攻略にかかる時間が増えるだけ。
システムをうまく設けた場合:
- 各武器に対して強い・弱い敵がいる。
- それぞれのスタンスはメリットとデメリットがある。敵の動きを見極めて適切なスタンスに切り替えなければならない。
- 敵を早く倒すか否かだけではなく、いかにコンボを繋げたかによって武器をパワーアップさせるためのポイントがもらえる。
- コンボを続けると特別な技が出せるようになる。この攻撃の演出がかっこよくて強い。
プレイヤーは目標を達成するために操作を行うので、その過程はシステムで楽しいプレイへ誘導しなければなりません。同じボタンを連打するのが一番楽な攻略法であれば、普通はその道を選んでしまうでしょう。もちろん武器やスタンスを切り替え、ダメージを受けずにコンボを続けようと頑張るプレイの方が楽しいのですが、そうするように促すのはシステムです。
ゲームのシステムと同じように、店はポイントカードで顧客の行動に影響を与えようとしています。
店にとって最悪の行動は:
- ものを買う時に店にこだわらないで近い場所に行くだけ。
- 定期的ではなく、気が向いた時にだけ店に行く。
しかし、ポイントカードをうまく使えば顧客の行動に大きく影響を与えることができます。
- 同じものを扱っている他店に行かない(「この店のポイントがほしい」)
- 特定の日に買い物をする(「この日ならポイントが3倍」)
- 定期的に来るようにする(「今日使わないとポイントの有効期限が切れる」)
- もっと買わせる(「後50円でもっとポイントがもらえる」)
ゲームの システムとは目的が違いますが、根本的な考え方は同じです。顧客(プレイヤー)の心理を理解し、一番便利な買い物方法ではなく、店がしてほしい方法を採ってもらう。
ポイントカードには様々な制度がありますが、一番よくあるのは「100円の買い物=1ポイント、1ポイントは1円と交換できる」というタイプです。ないよりマシですが、システムとしてあまり面白くないですね。
プラチナゲームズが入居している梅田スカイビルの近くに、私の好きなベーグルの店があります。あの店のポイントカードは非常に面白かったので、ここで再現してみます。
「で?」と思った人も多いかもしれませんが、このカードをデザインした人はご褒美の心理をよく分かっているに違いありません。
分析しよう:
- 最初のプレゼントは7つのスタンプでもらえる。つまり、毎朝ベーグルを食べるなら毎週プレゼントがもらえる。
- 1つ目から2つ目のプレゼントにグレードアップするためのスタンプ数が少ない。せっかく7つ集めたのだから10個を目指そう!と思わせやすい。
- あの店のマフィンの値段はベーグルの2倍。15スタンプを達成すると、ベーグル3つ分の価値のプレゼントがもらえる。つまり、短期的な欲を抑え、我慢するとスタンプの価値が6個分上がる。
- もちろん、最高のプレゼントは明らかに一番いいバリュー。1つ目のプレゼントのたった3倍のスタンプ数で6倍の価値のものがもらえる。
- 私も含め、最高のプレゼントを目指す顧客は多いだろう。しかし、一気に6個もらったところで食べきれないし、ベーグルは焼かれた日に食べた方が美味しいので、友達にあげる可能性が高い。それがPRにもなる!
- このカードには有効期限がある。一番いいプレゼントを目指していた時、期限の1週間前にあと5個のスタンプが足りず、ほぼ毎日ベーグルを食べた。結局6個の無料ベーグルをもらったが、もう飽きていたので自分では1個しか食べなかった。
当時はまるでゲームのようにいつベーグルを食べるか作戦を立て、どうすればコストパフォーマンスを最大にできるか計算をしていました。
このように現実世界からは、ゲームデザイナーとして色々学べることがあります。
(最近のゲームはもっとうまくプレイヤーを無意識に誘導するので、逆にポイントカードのようなキャンペーンをする会社も、ゲームをプレイすべきだと思います)
ゲームデザイナーになろうとしている学生さんなら、ゲーム自体をプレイしていることはもちろん、ゲームに関する様々な参考書やゲームデザインに関する記事も読んでいることでしょう。しかし、ゲームそのものだけではなく、幅広く世の中を観察するのもいいと思います。スタンプ集めなら特別な知識を得ることができなかったとしても、おいしいベーグルをお得に食べられますしね!