皆さんこんにちは。『MAX ANARCHY』でキャラクターモデリングを担当した小手川と申します。
 
キャラクターモデリングとは、各キャラクターのデザイン画から情報を読み取り、ポリゴンモデルとして実際のゲームに出す工程のことです。
 
おいしそうな絵の中の餅を食べられるようにすることがお仕事なわけですね。
 
ただしその餅の絵には後ろ側が描かれていないかもしれないし、断面がどうなっているかも描かれていなかったりします。
その絵を解釈し、内部構造を想像し、時には新しいデザインを付け加えながら、また原画デザイナーと相談しながら立体として成立させ、そのゲームの世界観にふさわしい質感やそのキャラクターの歴史を感じさせる傷までも入れて、魅力ある原画のキャラクターをより魅力的にすることも大事なお仕事です。

ニコライの腕は内部が透けることになっていますが、細かいデザインはモデラー側で起こしています。
 
また、ゲームの中にそのキャラクターを登場させた場合、予期せぬ事態が起こったりすることも良くあります。
この場合、原画デザイナーと相談して見栄えがするように改造したり、新たにデザインを起こしてもらったりもします。
 
ジャックは一番最初に制作したキャラクターで、一番最後までいじっていたキャラクターでもあります。
 
 
さて『MAX ANARCHY』はご存知の通り、最大16人同時にプレイヤーが暴れまわるゲームです。
当然各プレイヤーが使っているキャラクターはそのプレイヤーにとっての主人公ですからクオリティを落とすわけにはいきません。
つまり最大で16人主人公クラスのクオリティのモデルを出さなければならないわけですね。
 
『BAYONETTA』で言えばベヨネッタかジャンヌが16人同時に出るわけです。
しかも当時のフルスペックでごまかし一切なしのモデルが。
試しにその基準でメモリの計算をしてみたら全く足りませんでした。ついでに処理速度も全然足りません。オウシット。
 
ところで皆さん、他のゲームをやっていて頻繁にモデルが切り替わっていることをご存知でしょうか。
 
カメラからの距離に応じてモデルの細かさを変え、処理速度を稼ぐLOD(level of detail)が良くある例なのですが、他にも
「顔がアップになり表情が変わるシーン」
「手で何かを操作しているシーン」
では、普段固定モデルの手や顔を動くものに差し替えていたりします。
 
こういうシーンで滑らかに動く表情や細かいモデリングを見せておけば、不思議と普段のモデルもハイクオリティに見えるのです。
 
今回、これを最大限に利用しました。
一番良く見えるキャラクター、つまり自分が操作しているキャラクターは細かく作り込み、それ「以外」の敵プレイヤーキャラクターは細かいモデリングや動く箇所を極限まで排除して処理速度とメモリを稼ぎました。
 
 
もちろん格闘ゲームである以上、各キャラクターの魅力を損なうわけにはいきません。
たとえ敵であろうと殴っているときに無表情なのは気持ちが良くないので、切り替えで表情を付けました。
これは表情アニメーション担当が大変「いい顔芸」を作ってくれたので気になる方はちょっと気をつけて見てみましょう。
また手首も切り替えですが、指を立てての挑発行為や決めワザなどそのキャラクターの特徴となる部分はちゃんと用意しています。
 
 
さてこれで処理速度とメモリは解決できま……せんでした。
複数の人間でキャラクターを制作している以上、「メモリ少ない・多い」「処理重い・軽い」は事前に基準を決めていても出来上がったものはバラバラだったのです。
これは多分に自分が作ったキャラクターへの愛があると思われます。誰も自分の愛息や愛娘のポリゴンを減らしたりしたくは無いのです。
おまけに画面内に16人キャラクターがいても、それが1種類の時と16種類の時では全くメモリの消費量が違うので、次々状況が変わるゲームでは誰が重いのかまるでわかりません。
 
そこで一計を案じました。
何もないフィールドを用意してもらって、そこにキャラクターを設置、リアルタイムでメモリ消費量と処理速度を計測し統計を取ります。
そして表を作り、平均値を下回っているものは赤で、優秀なものは青で表示し、毎週プリントアウトして担当者へ配ったのです。
 
恐怖の通知表の一部。都合によって内容は見せられませんが誰がヤバかったかは何となく…
 
こうして壮絶な「点取り合戦」が始まりました。乱戦格闘アクションは開発もバトルロイヤルだったわけです。
 
最終的に敵プレイヤーキャラクターのテクスチャー面積は『BAYONETTA』の頃の1/8、ポリゴン数はヤバイくらい少なくなりました。
それでもあまり印象が変わらないのは先ほどの工夫、と現世代機の特徴である法線マップのおかげです。
 
大体ポリゴン数は自キャラクターの60%まで削減。細かい立体は法線マップで絵として持っています。
 
また担当キャラクターへの愛は強さバランス調整の際にも発揮されました。
ゲームが完成していくにつれバランスやバグのチェックを全員で週何回かするのですが、明らかに自分のキャラクターを良く使っており、弱くなるとプランナーへ。
こういう意見はたくさんある方がいいので随分役だったようです。
 
このようにキャラクターモデリング担当であろうとゲームの内容には随分と関わります。
今回は特にそれが顕著でした。恐るべし格闘ゲームと親の愛。
 
最終的にプレイヤーキャラプランナー・カイザー田浦とディレクター山中が調整をまとめ、個性的でありつつ、絶対勝てない、なんてことがないようなバランスに仕上がっています。
体験版では無いルール、キャラクター、アビリティなどが製品版では待っていて、また新たな戦法が構築されることでしょう。
 
それでは我々の愛憎が詰まった『乱戦格闘アクション』、お楽しみください。